嚥下機能に悪影響を及ぼす老年疾患はいろいろあります
傷害や疾病の無い健康な高齢者(健常高齢者)には、加齢による嚥下機能の低下はほとんど考えられませんが、老化に伴う疾患(老年疾患)に罹患してしまうことで嚥下機能の低下は、顕性誤嚥、不顕性誤嚥ともに増加する可能性が高くなります。
老年疾患には脳梗塞による麻痺やパーキンソン病などの変性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流などがあり、これらの疾病は嚥下機能が低下してしまい、そのために誤嚥が必ずといって起きてしまいます。また、唾液分泌機能障害を引き起こしてしまうシェーグレン症候群や、口渇を引き起こしてしまう三環系抗うつ剤や尿失禁を防ぐための抗コリン薬などは、唾液分泌機能を低下させる事から嚥下機能を障害し誤嚥を繰り返すなどしてしまいます。
誤嚥や嚥下機能の低下などで低栄養となってしまい経管栄養を行っても誤嚥はなくなりません
誤嚥を繰り返し起こしたり嚥下機能などの低下により、栄養を十分に摂る事が難しい場合に経管栄養となる場合がありますが、経管栄養にすることで口腔から咽頭部を経て食道、胃に食べ物は通りませんので顕性誤嚥はなくなります。
しかし、唾液は経口摂取で無くとも出ますので、誤嚥を起こしていたり嚥下機能が低下している場合には不顕性誤嚥は無くなりません。従って誤嚥性肺炎は経管栄養となっても防ぐことは出来ませんし、口からの食物摂取を行わなくなることにより唾液の分泌低下や口腔内の細菌の繁殖が盛んになってしまい、さらに誤嚥性肺炎の危険性は増すことも考えられます。
食後5分間歯ブラシを使う口腔ケアは疾病予防、対策に効果的です
食後5分間歯ブラシを使う口腔ケアは、嚥下機能の改善と口腔内細菌の減少に加えて咳反射も回復させることがわかっています。また2年間にわたって口腔ケアを実施した場合に、肺炎発症が口腔ケアを行わなかった場合よりも40%も肺炎発症を減少させたり、口腔ケアを行う事により肺炎での死亡率が約半分に減少したという結果やインフルエンザ感染も少なくするという結果の報告もあります。
歯科と医科との間には共働という考え方に乏しく、その為に誤嚥や嚥下機能低下に対する取り組みが個々ばらばらに行われています。口腔ケアが疾病予防、対策に効果的であることがわかってきておりますので、歯科と医科との垣根を低くして相互が共働して高齢者の口腔ケア、嚥下機能の改善、維持など高齢者の健康について取り組まなくてはならないと思われます。