認知症高齢者の低栄養は、多くの高齢者の低栄養の要因となる[咀嚼力、嚥下力の低下]、[義歯、歯周病、齲歯などの口腔内の問題]、[唾液分泌量の減少]、[消化液分泌量の減少]、[腸の蠕動運動の低下]、[味覚の低下]、[嗜好の変化]、[疾病の治療による痛みや薬剤の副作用]などに加えて、【動作の緩慢・遷延】、【判断力の低下】、【操作性の低下】、【意欲の低下】、【嗅覚の低下】などの認知症症状によって、容易に引き起こされるものであると考えられます。
食事を摂ることは、いのちを保つために必須のことになります。食事を美味しく、楽しく、心地好く摂ることは、いのちを長らえることにもつながると思われます。食事が不味く、寂しく、心地悪しければいのちを短めることにもなりかねません。
認知症については、徘徊や暴言、興奮、幻覚・妄想などのBPSDに注目が行きがちですが、高度認知症に至ると全介助状態となるだけでなく、コミュニケーション能力の喪失も起きることから、自らの意思で自立した生活を継続することは非常に困難となり、24時間体制の介護が必要となって来るために、高齢者だけでなく介護者のQOLも著しく低下することになります。
高度認知症高齢者にとっては、食事を摂ることでさえも、いのちを保つためにだけとなり、介助されることで行われることになります。果たして食事を美味しく、楽しく、心地好く摂りながら、いのちを長らえることが出来ているか、確かめる術が乏しいことから、推し量ることしか出来ないと思われます。
≪いのちについてどう考えるか≫
生きていることは良いことであり、多くの場合本人の益になる-このように評価するのは、本人の人生をより豊かにし得る限り、生命はより長く続いたほうが良いからである。医療・介護・福祉従事者は、このような価値観に基づいて、個別事例ごとに、本人の人生をより豊かにすること、少なくともより悪くしないことを目指して、本人のQOLの保持・向上および生命維持のために、どのような介入をする、あるいはしないのがよいかを判断する。
(出典:高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン-人工的水分・栄養補給の導入を中心として-)
認知症高齢者への経管栄養は、必ずしも予後を改善するものでは無いという報告もあり、低栄養、経口摂取困難となった場合に、経管栄養等の処置が高齢者にとって、上記のガイドラインにあるように、「本人の人生をより豊かにすること、少なくともより悪くしないことを目指して、本人のQOLの保持・向上および生命維持のため」になるかどうかを、介護ケアの専門職として考えて行かなければならないと思われます。
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