排便とは、体内から腹圧と直腸・肛門機能によって便が体外に排出されることですが、加齢に伴う成長とトイレット・トレーニングなどによって、生理的行為でありながら脳に強く支配されている行為であると考えられます。トイレット・トレーニングの完成によって、便が直腸に達することで排便反射が生じて、排便が起きるのではなく、人それぞれの排便環境が整うことによって、大脳が規制していた排便機能の心理的・身体的な抑制が解かれることによって、初めて便が肛門から排出されることが可能となります。
排便という行為には、日本人の場合では、≪トイレの個室で座位を取って行うもの≫という社会的な規範があります。排便行為は、個別のトイレット・トレーニングを受けながら、概ね規範に基づいた排便習慣が形作られるようになるものと考えられます。排便行為と排便習慣は、非常に個別性が高く、かつ、心身の状況や環境に影響されやすいものであると思われます。
高齢者の便秘は、加齢に伴う生理的・病的老化によって、腸管の蠕動運動や排便にかかわる筋力の低下、自律神経の機能低下などが起きることから、加齢に従って多く見られるようになります。認知症高齢者の場合には、活動性の低下、食事量の減少、便意を感じたり、便意を表すことが難しくなることや認知症の症状として生じる便秘などによって、著しい便秘となったり認知症に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
認知症の高齢者では、便秘のために興奮したり、不穏になったり、不眠や徘徊などBPSDの様々な症状が引き起こされたり、認知症症状が増悪してしまう可能性があり、便秘への対応を行う事で症状の消失や改善が見られる場合があります。
認知症の高齢者への便秘予防や対策には、●食事のリズムを整える、●食物繊維や水分を十分に摂る、●適度な運動を日常的に行う、●排便リズムをつけるなどを心がけるだけでなく、排便行為と排便習慣は、非常に個別性が高く、かつ、心身の状況や環境に影響されやすいものであることから、≪尊厳≫、≪羞恥心≫、≪生活歴≫、≪生活習慣≫などへの配慮が必要であると考えられます。
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