中枢神経感染症による認知障害は、病原微生物の感染が生じる事で起きるだけでなく、感染症の治療後の後遺障害としても発生します。中枢神経感染症による認知症は、治療可能な認知症(treatable dementia)であることから、早期診断・早期治療が非常に重要となります。
≪認知障害をきたす感染症≫
Ⅰ.頭部MRI異常を認めにくい疾患
スピロヘータ感染症
①神経梅毒
②ライム病
Ⅱ.時に頭部MRI異常を伴う疾患
真菌性髄膜炎
結核性髄膜炎
Ⅲ.頭部MRI異常を認めやすい疾患
ウイルス感染症
①HIV脳症
②ウイルス性脳炎(単純ヘルペス脳炎、辺縁系脳炎、日本脳炎など)
③PML(進行性多巣性白質脳症)
④SSPE(亜急性硬化性全脳炎)
プリオン病
その他脳炎・脳膿瘍(頭蓋内結核腫、真菌、トキソプラズマ、寄生虫など)
Ⅳ.後遺障害として認知障害を起こしうる疾患
急性細菌性髄膜炎
ウイルス性脳炎(単純ヘルペス脳炎、辺縁系脳炎、日本脳炎など)
その他の脳炎・脳膿瘍
神経梅毒は、梅毒が中枢神経に移行したことによる感染症で、認知障害は晩期梅毒で見られ、髄膜血管型神経梅毒では、初感染後4~7年、実質型神経梅毒では10~30年の経過で現れるとされています。HIVと梅毒との重複感染が増加しており、米国では梅毒新規発生患者の60%以上が、HIV感染症を合併していると報告されています。
ライム病は、野ねずみや小鳥などを保菌動物として野生のマダニによって媒介され、人獣共通のボレリアというスピロヘータが起こす多臓器障害を生じる感染症です。神経症状は、Ⅰ~Ⅲ期に分類されており、Ⅱ期とⅢ期で脳症が起きるとされていますが、わが国ではⅢ期に至った症例は見られないとされています。
結核性髄膜炎は、結核菌による中枢神経感染症で、記憶障害、人格変化、病識の障害が生じる場合があるとされています。結核性髄膜炎の症状として水頭症や血管炎による脳梗塞が起きる場合もあります。
HIV感染による認知障害としては、エイズ脳症(ADC)が典型でしたが、多剤併用療法が取り入れられてからは、重篤な状態でエイズ脳症を呈することがまれになったとされています。近年では、HIV関連神経認知障害(HAND)と呼ばれる重症度によって、①無症候性神経心理学的障害(ANI)、②軽度神経認知障害(MND)、③顕著な機能障害を伴う認知障害(HAD)の3つに大別される認知障害が見られるようになりました。ANIでは、日常生活は問題なく行えるが、MNDになると日常生活に支障が出て支援が必要となり、HADでは入院による加療が必要となる場合があるとされています。
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