進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、1964年にSteelらによって最初に報告された進行性の神経変性疾患です。進行性核上性麻痺とは、この疾患の症状の中から眼球運動麻痺が、目を動かす神経に問題があるのではなく、目の動きを調節する上位の神経機構の障害である核上性運動麻痺が進行性に現れるということから名付けられました。
PSPの原因は不明ですが、τ(タウ)タンパクによる神経原線維変化、神経細胞脱落、グリオーシスやグリア細胞内へのτタンパク蓄積が生じることがわかっています。
≪PSPの特徴≫
●易転倒性:パーキンソン病と異なり発症初期から転倒を繰り返す
●垂直性核上性注視麻痺:上方視の障害が先に、後から下方視の障害が出現する。さらに進行すると水平方向も障害される。
●パーキンソン症状:パーキンソン病と異なり頸部や体感に強い強縮が見られる
●前頭葉徴候・前頭葉性の認知障害
●構音・嚥下障害
●小脳症状
≪PSPの認知障害の特徴≫
◆記憶障害:素早く思い出すことが出来ず、十分な時間を与えれば思い出すことができる
◆思考過程、情報処理過程の緩慢化
◆人格・感情障害:無感動、無気力、幼稚化、抑制欠如(模倣行動、使用行動)、怒り発作など
◆獲得した知識を操作する能力の障害:計算や抽象化思考などの低下
◆動作の開始・終了障害:無動、無言、保続
◆前頭葉徴候:把握反射、視覚性探索反応(目の前のものを手をのばしてつかむ)、模倣行動(指示されないのに目の前の動作をまねる)、使用行動(指示されないのに目の前の道具を使う)など
PSPの発症年齢は60歳代が多く、男女比は5:2となっており、発症率は10万人あたりで4~10人とされています。ADLの低下はとても速く、平均で発病2.7年で車いす生活となり、4.6年で臥床状態の生活となります。予後については、罹病期間は5~9年で、50%生存期間は5~6年となっています。
<図1>PSPの症状の時間的発現経過(出典:進行性核上性麻痺/日本神経病理学会)
702204