食欲の低下は、誰にでも起こり得るもので、食事の準備をするのが億劫になったり、お腹が減らないので食事を摂る気分にならなかったりすることは、時々見られると思います。心身に治療が必要とされる食欲の低下の原因となる疾病や薬剤の服用が無かったとしても、高齢者では加齢に伴う生理的老化によって、代謝量の低下、運動量の低下などからエネルギー消費が少なくなり、それに従ってエネルギー源としての食物摂取を、お腹が減りにくくなることから必要と感じなくなることが考えられます。
高齢者のエネルギー消費が減少して、食物摂取量が少なくなることは、ヒトにとって最低限度必要とされるエネルギー源や栄養素、水分などを獲得することが出来なくなり、活動性の低下だけでなく健康維持にも悪影響を及ぼし、フレイルティ・サイクルにはまり込んでしまうことになりかねません。
<図1>フレイルティ・サイクル
フレイルティ・サイクルにはまり込むことを防ぐために、運動量を増やして基礎代謝量を増やす取り組みをしたり、三度の食事を摂って必要なエネルギーや栄養素、水分摂取を得ることはとても重要な行為になります。心身の活動性が低下している状態の高齢者にとっては、特別なきっかけや高い動機付けを持つことが出来なければ、自分の健康のためとは言え少なからず苦痛を伴うと思われます。日常生活の中で一旦止めてしまった行為、習慣を始めることは、大きな重い振り子を動かし始めるのと同じで、動かし始めるにはとても大きな力が必要であり、動かし続けるには大変な労力が必要となります。
空腹感は、胃や腸の働きに伴って、脳の空腹中枢が働いて感じるものであるとされています。空腹中枢が働いたとしても、空腹を解消するための前向きの欲求が起こり、それに従って摂食行動が起きると考えられます。食欲不振は、単に空腹感を感じにくくなるだけでなく、空腹を解消するための(前向きの)欲求が弱まることで生じると考えられます。
食欲不振を解消することは、食事への意欲を高めることが必要と考えられます。食事への意欲を高めることは、フレイルティ・サイクルに見られるように、食欲不振は日常生活全般と強いつながりを持っているものと言えることから、食事にスポットを当てて取り組みをしても効果を期待することは難しいと思われます。
食事摂取の行為を好ましい、楽しい行為として、好感情を得る事はもちろん必要となりますが、それだけでなく、日常生活全般の環境整備、生活習慣の見直しのためのアセスメントを行い、本人だけでなく社会資源を有効に活用して行きながら、QOLを高めることで食欲不振の解消への取り組みが可能になると考えられます。
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