夏季の熱中症に対して、冬季には低体温症という疾病があります。低体温というと、雪山で遭難した場合や、冬季に泥酔して居眠りをしてしまってなどと考えてしまいますが、「日本救急医学会・熱中症に関する委員会」が行った調査によると、低体温症となるのは、圧倒的に高齢者が多く、屋内発症が屋外よりも多いという結果が報告されています。
低体温症とは、身体の深部体温が35℃以下になった場合をいいます。ヒトは、深部体温が[35℃]を下回ってくると、全身がガタガタと震える症状が見られるようになります。この震えは、ヒトの生命維持のための防御反応のひとつで、身体を震わせることで体温を上げようとしていると考えられています。高齢者では、このガタガタという身体を震わせて、体温を上げようとする反応が起きにくいと言われています。[32℃]を下回ると、震える反応も無くなって、意識が朦朧としてきます。[30℃]を下回ると、心臓の機能が低下して、致死的不整脈を起こしやすくなります。25℃を下回ると、昏睡状態となり、[20℃]を下回ると心停止となる場合もあるとされています。
低体温症の原因は、①寒冷曝露、②熱喪失状態、③熱産生低下、④体温調節機能低下が考えられます。日本救急医学会の調査結果では、寒冷曝露があったとされるものが、78%となっています。発生場所は、室内で起きたものが、75%となっています。
寒冷曝露があった低体温症の発生数は、80~84歳が最頻値で、50歳を超えると発生数が増加して行きます。低体温症の発生する平均年齢は、70.4歳となっており、高齢者に多く見られることが明らかとなっています。生活環境については、<独居ではない>が65%、<独居>が25%、<住所不定>が4.1%となっています。日常生活動作に関しては、完全自立は56%、何らかの障害を有する場合が40%を超えています。
屋内であっても冬季では、室温を含めて気温そのものが低いことから、①加齢、②栄養状態の悪化、③脱水、④持病の悪化、⑤体調不良などが誘因となって低体温症に陥りやすく、重症化を招きやすいとされています。
冬季の室内で高齢者が低体温症を引き起こす危険性に対して、①低栄養、低血糖、内分泌疾患などの体温を維持できなくなる原因疾患の存在、②意識消失など低温環境から退避できない状況を引き起こす痙攣発作、不整脈、脳血管障害などの症状の発生、③家族との同居であっても昼間や深夜は一人になりうる環境について、十分な注意と配慮が必要であると考えられます。
参考:本邦における低体温症の実際/日本救急医学会 熱中症に関する委員会(http://www.jaam.jp/html/nettyu/20130822_teitaion_houkoku.pdf)
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