介護職に求められている職業倫理として、日本介護福祉士会倫理基準(行動規範)は、介護の専門職として求められる判断・行動に対する規範となるものと考えられます。介護福祉士倫理基準(行動規範)は、介護職のバックボーンとして、介護サービス・支援の提供を通して実践が行われなければなりません。
介護職が仕事をする上で倫理基準や行動規範を実践するためには、介護サービス・ケアを提供するにあたって特別な配慮や知識、技能を必要とするものではありません。高齢者など支援を必要とする介護ケアの利用者が、住み慣れた環境で能力に応じた自立・自律した日常生活を過ごすことを、介護職は支えることが職務となっています。
利用者が主体となる介護ケアの提供を行うために、介護の専門職としての知識、技能、態度を持ち、介護サービス・支援の提供を行いながらも、より質の高い、より良い介護ケアの提供を目指す事や利用者の自立支援、重度化防止、エンパワメントを達成することなどが、介護職の倫理基準や行動規範の実践につながる事になります。
利用者が主体となる介護ケアを普通に提供することは、利用者自体が高齢者など支援が必要とされる人々で、その心身の特性から日々安定した状態が続いていたとしても、いつ生理的老化が進んだり、病的老化や疾病などの発症や悪化が起きるか予測は困難です。利用者の心身の状態を知りながら、それに応じた介護ケアのサービス・支援の提供をチームケアで行ってゆく事が、介護職の専門職としての職業倫理・行動規範の実践となり、介護職のバックボーンになると言えましょう。
介護ケアのサービス・支援の提供が常にバックボーンに従って行えるとは限りません。同じ対人支援の専門職であるソーシャルワーカーの職能団体である社会福祉職団体協議会のソーシャルワーカー倫理綱領の倫理基準には、「Ⅱ.実践現場における倫理責任」という項目の中に、「3.(実践現場と綱領の遵守)ソーシャルワーカーは、実践現場との間で倫理上のジレンマが生じるような場合、実践現場が本綱領の原則を尊重し、その基本精神を遵守するように働きかける」という記載があります。
介護ケアの専門職としてソーシャルワーカーも数多くの職種で仕事をしており、ソーシャルワーカー倫理綱領は、介護職とも深く関係がある職業倫理の一つと言えます。倫理綱領は実践現場との間で、倫理上のジレンマが生じる事を想定しており、介護職にも倫理上のジレンマが介護サービス・支援の提供の場で起きうることを示唆していると考えられます。
介護ケアの現場で起きる倫理上のジレンマは、利用者と介護サービス・支援の提供者との間やチームケアを行うメンバーとの間で生じるものです。そのジレンマの解消について、それぞれの専門職としてのバックボーンとなる職業倫理規定を尊重しながらも、利用者あっての介護ケア、ケアチームであることを忘れてはなりません。
利用者が主体となる介護ケアを目指すことが、ケアチームの共通の目標であることを確かめ合うことによって、介護ケアの現場で起きる倫理上のジレンマは、利用者との間、専門職同士の間で起きていたとしても、介護ケアのバックボーンに立ち返ることで解決に至る糸口になると思われます。
利用者が主体となる介護ケアを目指すことが、介護ケアのケアチームとなる介護職をはじめとしたすべての専門職の介護ケアにおける共通のバックボーンとなる事を忘れてはなりません。
302201