利用者が主体となる介護ケアの提供を行う際に、利用者の自己決定と介護者が必要と考えるサービス・支援の方法や内容が異なる場合が生じた際に、介護職者は介護の専門職として求められている倫理と人権の尊重という規範にはさまれジレンマに陥ることがあり得ます。
介護職は介護ケアについて、利用者の自己決定を尊重することや、介護職が専門職として利用者に必要と判断した根拠に基づくサービス・支援の提供を行うことは、いずれも介護職の職業倫理に沿ったものと考えられます。しかし、利用者が主体となる介護ケア、利用者の人権の尊重ということから、必然的に利用者が主体となるべき介護ケアを行ってゆくことになります。
介護職は専門職として利用者に必要と判断した介護ケアの提供を、利用者の自己決定に基づいた介護ケアを行いながら取り組むことが必要となります。そのためには、利用者の自己決定の判断材料や判断根拠を知る事によって、介護職の判断材料や判断根拠との間の違いを知る事が必要と考えられます。介護職は、利用者との間でフィードバックを行いながら利用者の考えを知った上で、介護職が判断した介護ケアの提供が、利用者に添いながら行えるように取り組んで行きます。
介護職が利用者に添うことで、介護職の職業倫理に沿った介護ケアの提供が可能となり、介護倫理と人権の尊重についてのジレンマは解消されると考えられますが、利用者と介護職とを取り巻く人々、家族、地域社会、ケアチーム、介護保険制度との間にジレンマが生じることも十分に考えられます。
ケアチームとの間では、利用者が主体となる介護ケアを提供するという事を確認した上で、それぞれの専門職種間の判断を互いに知り合うことで、ジレンマの解決への取り組みが明らかになると考えられます。
家族、地域社会との間では、それぞれの権利を尊重しながらも、専門職の目を通して利用者を知ってもらうことで、介護ケアの提供について理解を得ることが可能となると考えられます。
介護ケアは介護保険制度に基づいて提供されるものですから、介護保険制度で「××してはならない」ことは、コンプライアンスを守ると言うことから遵守するのは当然ですが、それぞれの専門職の裁量が可能な「△△することができる」ことや「××してはならない」こと以外は、チームケアを最大限に生かして行く事を考える必要があります。その上で社会資源の活用・発掘・育成などにも取り組んで行く事が必要と考えられます。
302202