介護保険制度が始まることにより、高齢者福祉制度の介護ケアは措置から契約へ、介護ケア事業はサービス事業という位置づけに大転換しました。介護サービスの利用を希望する利用者は、介護保険制度の基準を満たした指定事業所と介護保健制度に基づく契約を行います。そして、契約で定められた介護サービスの提供を受け、サービス提供に対する自己負担の支払いを行うことになりました。
介護保険制度のサービスは、利用者からの1割の自己負担以外に、介護報酬として保険者からサービス提供の対価として、介護報酬の基準額の9割が給付されることになりました。老人福祉法によって措置が行われていた時には、介護ケアの実施責任は措置決定者である地方自治体にありました。介護保険制度となったことで、実施責任のうち介護ケアの提供責任などは指定介護サービス事業者が負うことになり、地方自治体は金銭給付を行うだけという法的責任の大幅な減少が見られました。
介護保険制度では、国・地方自治体の介護ケアに対する法的責任は少なくなり、指定介護サービス事業者の責任はとても大きなものとなりました。介護保険制度に対する国・地方自治体の社会的責任は、制度を定めて運用する立場であることから強く求められるものですが。表面的なものや制度維持ばかりの責任を負うことをして、社会から求められている介護の倫理に対する責任については果たそうとしているようには見えません。
社会的責任については、組織の社会責任について①法的責任、②経済・財政的責任、③倫理的責任、④社会貢献的責任の4段階のレベルがあることを、日本経営倫理学会CSRイニシアチブ委員会が示しています。ISO(国際標準化機構)では、組織の社会的責任についてのISO26000という国際基準があります。
介護保険制度では、介護保険事業者ならびに介護保険サービス従事者に対して、③倫理的責任レベルはもちろんのこと、④社会貢献的責任レベルを求めていますが、国・地方自治体は、②経済・財政的責任レベルか、①法的責任レベルを果たせば良いと考えているように思われます。
介護の倫理について、職業倫理として専門職ごとの倫理規定(倫理要綱、倫理基準など)があるのは当然ですが、社会的責任ということからでしょうか、数多くの介護事業所や事業所団体なども倫理規定を設けています。介護職は、自分自身の倫理・介護の倫理、職業倫理、事業所の倫理規定などに縛られることになります。関係する倫理規定を確かめて、自分自身の倫理との違い、それぞれの社会的責任・倫理的責任の考え方や実践方法などについて考えて見ることが必要でしょう。
302203