QOLの評価は、評価の対象となった方のその時点でのQOL(質問など)に対しての、主観的な感じ方や思いが評価の基となっています。たとえ短期間の過ごし方などで、QOLについての評価をするとしても、その方の人生での経験や知見などが色濃く繁栄されるのは、高齢者に限らず誰にでも同じだと考えられます。やはり年を加えているということで、高齢者にとっての人生の経験や知見などの意味は大きいと言えます。
高齢者は、長い年月を生きることにより、加齢に伴う生理的老化はもちろんの事、疾病による病的老化にも遭遇する可能性は大きくなっています。高齢者の置かれた状態は、少なくとも程度の差はあれ、加齢に伴う生理的老化は起きていて、過去に比べれば明らかにQOLは低下していると言えます。
QOLは、主観的なものであるとともに、相対的なものでありますから、その時々の状態に応じて変化するものです。従って、高齢者本人のQOLについての評価は、今現在が充実していて、たとえ生理的老化や病的老化によって健康や日常生活の安寧が得られていなくとも、尊厳が満たされ支えられて、エンパワメントの達成感が十分であれば、たとえ尺度の結果や周囲のQOL見立てが低いものとなっても、高く感じられている事は十分にあります。
家族を含めた高齢者に支援を行う人々が、日常生活の安寧(well-being)に不安を覚えてしまい、高齢者の為と思って本人の了解の上で生活環境を変えたところが、QOLの大幅な低下を引き起こし、健康や日常生活の安寧が妨げられてしまうという事が起こりうる場合があります。
Bさんは、65歳過ぎの女性で単身生活をしていました。長男家族が自宅がある町から2時間程度の距離に生活をしていて、ひとり暮らしのBさんの暮らしぶりを心配していました。そして、長男が自宅を新築するのを機に、長男の自宅を二世帯住宅として建てて、Bさんと同居することにしました。
Bさんは、65歳を過ぎても健康に不安も無く、嘱託とはいえ仕事も不定期にしていましたので、同居をすることで仕事をすることが出来なくなることや、住み慣れた町を離れることにも不安はありましたが、Bさんの健康を心配する長男と家族の意向に沿う形で同居を決意しました。
ところが、Bさんは新しい生活をはじめて2か月もしないうちに体調不良を訴えるようになり、入院するまでになってしまいました。検査の結果には特別な異常は見られず、体調不良の原因はわかりませんでした。
親族会議の結果、Bさんは元の町の自宅に戻ることになりました。ひとり暮らしが心配でしたが、ちょうど良い具合に下宿をする人が見つかったため、ひとり暮らしをすることもなく、ほとんど同居前と同じような生活に戻りました。そして、Bさんは、その後は加齢による生理的老化は見られたものの、入院となるほどの病的老化も生じる事もなく、90歳を過ぎても長年住み慣れた町の自宅で暮らすことが出来ました。