座るとからだの筋肉が作用する
立ったり座ったりする時、人間には筋肉の力が働いています。立っている時は全身の筋肉が、座っている時は上半身の筋肉が働いているのですが、これは本人の意志によって動かしているものです。
人間の筋肉は大きく平滑筋と横紋筋とにわけられます。さらに横紋筋は心筋と骨格筋にわけられるのですが、食道や胃などをつくる平滑筋、そして心臓壁をつくる心筋は本人の意志では動かせません。人間が、本人の意志で動かせるのは、運動を司る筋肉である骨格筋です。骨格筋は、脳からの指令によって収縮と弛緩とを繰り返してからだを動かしているのですが、寝たきりになると脳から指令が出ても筋肉が思うように動きません。
筋肉の動きが悪くなると関節が硬くなって動かしづらくなり、筋肉がずっと収縮している状態が続くようになってしまいます。すると当然、からだ全体の機能が低下し、寝たきりが続くという悪循環に陥ってしまうのです。
そうした負の連鎖を防ぐためにも、「座る」ということが大切です。なぜなら、ただ座っているだけのように見えても、上半身の筋肉は作用していますから。座るだけで筋肉の機能低下を防ぐことができ、寝たきり状態を改善することができるのです。同様に、「座る」という行為がもたらすメリットはたくさんあります。
「座る」で得られる9つのメリット
食べやすくなる
みなさんも経験があると思いますが、寝ている状態で何かを口にするのは難しいもの。寝たきりの高齢者ではさらに、食べたものが気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」から肺炎を引き起こす危険性もあるのですが、座って、前かがみになって飲食することで、そうしたリスクも回避することができます。
表情に動きがでる
座りますと、寝ているよりも表情が豊かになります。また、顔の筋肉に重力がかかるため、筋肉が収縮・弛緩し、それに伴って脳の活性化につながり、免疫力も活性化して…と、正の連鎖がつながっていくのです。
血圧が調節される
人間のからだは、姿勢を変えるたびに血圧を調節するようにできています。もちろん、寝ている状態から座るだけでも同様で、適正な血圧を保とうと、からだが自然に反応するようになります。
呼吸が楽になる
寝ている状態では肺に圧力がかかるため、その働きが悪化します。ところが、座ると肺が納まっている「肺郭」という部分が広がるため、肺活量が増し、呼吸が楽になるのです。
床ずれの治療・予防になる
床ずれは、一度できるとなかなか治りにくいもの。寝たきり状態では体位を変えるといった方法になりますが、1日に何回も介護者の手を借りるのも煩わしいものです。座ることで床ずれをおこしている部分の圧迫を和らげることができ、また他の部位にできないようにする予防になります。
排便・便秘が良くなる
座ることで、便を出そうとする腹圧が高まり排泄しやすくなります。また、同時にかかる重力も活かせば便秘も解消しやすくなります。
筋肉が強化される
座ると首や背中の筋肉に重力がかかり、姿勢を保つために筋肉が収縮するため、筋肉強化の一助となります。
体幹バランスが取れる
からだを起こすだけで、人間は無意識のうちにでも前後左右のバランスを取ろうとします。それによって筋肉も収縮・弛緩をするため、体幹バランスが良くなります。
手足の拘縮予防になる
寝たきりのままでは、筋肉がずっと収縮している「拘縮」という状態で、からだがどんどん固まっていきます。ところが、座ることで重力がかかり、拘縮とは反対の方向に働くことになるため、自然と拘縮を防いでくれるのです。