退院の提案が介護生活の始まり
病気やケガで入院していたとしても、いつかは「退院しましょう」と言われる日が来ます。この言葉が意味するところには2種類あり、一つは「完全に治りました」という意味。もう一つは「これ以上、回復が望めません」という意味です。前者なら喜んで退院すれば良いでしょう。しかし後者でも、決して悲観的になる必要はありません。もちろん、入院する前のような生活が出来ればそれに越したことはありませんが、その状態でいかに不自由なく生活していくかと考えることが大切。つまり、完治していようがいまいが、治療が終了した時点で日常生活がスタートするという考えで、そこからが介護の始まりと考えれば良いのです。
機能回復までには3つのステージ
脳卒中で入院した場合を例に取ってみましょう。その場合は、臓器の回復を目指す「治療期」、手足のマヒを回復させるなど身体機能の回復を目指す「リハビリ期」、立ったり歩いたり出来るようになってから日常生活を送る「生活期」という、3つのステージに分けることになります。「治療期」では、脳の血管が切れていたり、脳自体が腫れていたりといった症状を治していきます。これはもう、医師に任せておけば良いでしょう。患者が主体となるのは、その後の2ステージです。
生活意欲を向上させるベストなタイミング
「治療期」には、臓器が回復するにしたがってからだの機能が回復する兆しを見せるため、本人の精神状態が上向きになります。このタイミングこそ、身体機能の回復を目指すと同時に、生活への意欲向上を促す最適。「リハビリ期」へと移行させ、その精神状態を維持したまま「生活期」へとつなげていくのがベストと言えます。
入院中にリハビリを行い、ある程度のレベルに達すると「退院しましょう」と言われます。しかし多くの人が、この時点で「まだ元通りに動かないから不安だ」という気持ちになりがちです。そのために退院時期を延ばしたり、転院を考えたりといったケースも多いようです。しかし、既に「治療期」のステージから「リハビリ期」に移っているならば、自宅に戻った方が良い場合があります。というのも、病院でのリハビリはあくまで「訓練」であり、自宅では「実践」があるからです。
生活への意欲が訓練になる
人間は、ある一定の機能があるからこそ日常生活を送れています。治療やリハビリを行った上で身体機能を回復させ、日常での普通の生活を取り戻そうと考えるのが、病院での「医療」です。
一方では、日常生活を送っているから機能が保たれている、という考え方もあります。食事や入浴、排泄といった日常生活をしながら訓練することで、日常での普通の生活を取り戻し、維持していくというのが自宅での「介護」です。そうした生活の場には、家族をはじめ友人・知人など、サポートしてくれる人がたくさんいます。もちろん、本人の訓練に対する意欲が必要ですが、訓練する意欲がなくても、「日常生活を不自由なく送りたい」という意欲さえあれば、自然と訓練になるのです。
とはいえ、無理やりに訓練を促すのではいけません。「出来ることと出来ないことを区別する」「出来ないことは諦める」「正常に動く機能を活かせる条件を作り出す」といったように、介護者・要介護者それぞれが生活しやすいように、それまでとは異なる考え方をする工夫が必要になります。諦めることは決して後ろ向きなことではありません。現実をしっかり受け入れ、その中で何が出来るのかを考える前向きなことで、日常生活を不自由なく送るために有効な手段なのです。