要介護者の感性はとても敏感
幼児や病人など、弱い立場の人ほど感性が鋭く、“一見、親切そうだが裏のある優しさ”を見抜く力があると言われています。同様に、要介護者や認知症患者などは、自分に関わろうとする人が好意や善意をもっているのかどうかを瞬時に見破るという話をよく聞きます。それは何故でしょう。
そもそも人と人とが関係をもつ時は、相手に自分の気持ちを伝え、相手からリアクションが返ってくるといったコミュニケーションが大切です。特に、要介護者の体に触れるなど、直接的な関わりをもつ介護関係においては、いかに上手にコミュニケーションをとるかが重要になってきます。しかし、これが意外と難しいのも介護のもつ側面です。
動物行動学者のデズモンド・モリスは、言語・非言語問わず、人間のコミュニケーションは矛盾で満ちていると言います。人間は、自分の本心にはないことを伝えようとする時、つい本心に近い信号が体のどこかに表れ、いろいろな信号の間に矛盾が生じると言うのです。
例えば、本当はAであるのに、Bだと伝えなければならない時。言ってみればウソをつかなければなりませんが、言葉では「Aだ」と伝えたつもりでも、表情がこわばったり手が震えたり、鼻や頬がピクピクしたりといった信号を出してしまうことがあります。そして、伝えられた側はそうした信号を敏感に受け取ることになります。この受け取る力が、要介護者は強いのです。
全身を使ったコミュニケーションを
モリスによると、言葉を取り繕うことは簡単ですが、足や体が発する情報は、隠すことが難しいと言います。そうすると、自律神経が司る動きがもっとも信頼度が高く、逆に言葉というのはもっとも信頼度が低くなります。ウソ発見器はこの原理からできているものであり、「目は口ほどにものを言う」「足元を見られる」といったことわざも的を射ていると言るでしょう。言葉よりも表情や体の部位の方が、信頼度の高い信号を発しているのです。
ある看護士が来た時は痛みが和らぎ、また別の看護士が来た時は、その言葉や態度によって余計に痛みが増したという例もあります。コミュニケーションのとり方で、痛みの度合いすら変わるということです。
介護にあたる時も同様。言葉だけではなく、体全身で気持ちを表現してコミュニケーションを図ることで、お互いを理解し合えるのです。それは決して演技などではなく、いわば介護の技術として大切な要素です。