厚生労働省は、平成24年6月に認知症施策プロジェクトチームがとりまとめた「今後の認知症施策の方向性について」を公表しました。これから国が行う医療ケアへの認知症施策が進む方向性を、この報告書は示しているものと考えられます。この中で、今後の医療施設での認知症ケアを行ってゆくための問題点や課題について、≪認知症の人に対する医療の問題点≫、≪認知症の人の精神科病院への長期入院の解消≫などで具体的に示しています。
≪認知症の人に対する医療の問題点≫として、「認知症の精神症状に対する抗精神病薬の投与については、先進諸国で、その悪影響について議論が行われ、ガイドライン等が策定されているが、日本ではまだガイドライン等が策定されていない。また、不適切な薬物使用により精神科病院に長期入院するケースが見られる」としています。
認知症医療については、「認知症疾患治療ガイドライン2010」や「認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012」が発行されており、2012年度には2010年度版の追補版も日本神経学会のホームページに掲載されています。その中には諸外国と同様に、認知症の精神症状に対する向精神薬の投与についての悪影響について認識されており、認知症への対応や薬物治療を含めた治療の原則などが示されています。「日本ではまだガイドライン等が策定されていない」という発表の内容は、明らかな誤認であると考えられます。
そして、「一般病院で、職員の認知症への理解や対応力の不足から、身体疾患の合併等により手術や処置等が必要な認知症の人の入院を拒否するなどの問題が生じている。また、一般病院で、行動・心理症状に対応ができないため、精神科病院に転院するケースが見られる」とされています。
認知症高齢者の医療について、一番の問題とされているのが、この一般病院の受け入れと対応の悪さであると言われています。一般病院では、認知症であるという事だけで入院を拒否され、精神科病院では、診療科目が無いという事で入院が拒否されてしまい、必要な医療が受けられないという事態が指摘の通りに生じています。
さらに、「認知症のために精神病床に入院している患者数は、平成8年の2.8万人から平成20年には5.2万人(いずれも患者調査)と大幅に増加している」とされ、長期入院の解消が大きな課題とされ、「認知症の人の不適切な『ケアの流れ』を変えること」のために、5つの施策を重点的に取り組むとしています。
<5つの重点施策>
① 早期診断と「認知症初期集中支援チーム」による早期ケアの導入
② 「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定
③ 一般病院入院中の身体合併症を持つ認知症の人や施設入所中の行動・心理症状発症者に対する外部からの専門家によるケアの確保
④ 精神科病院に入院が必要な状態像の明確化について、有識者等による調査、研究の実施
⑤ 「退院支援・地域連携クリティカルパス(退院に向けての診療計画)」の作成と地域での受入れの体制づくりの推進
「今後、厚生労働省内をはじめとして関係者が総力をあげて取り組むこととする」とされる5つの重点施策によって、認知症の人が「いつでもどこでもその人らしく」出来るようになることを、介護ケアの専門職者に実践が求められることになります。
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