厚生労働省は、平成24年6月に認知症施策プロジェクトチームがとりまとめた「今後の認知症施策の方向性について」を公表しました。これから国が行う入所ケアに対する認知症施策が進む方向性を、この報告書は示しているものと考えられます。この中で、今後の施設での認知症ケアを行ってゆくための問題点や課題について、≪行動・心理症状等が原因で在宅生活が困難となった場合の介護保険施設等での対応≫などで具体的に示しています。
≪行動・心理症状等が原因で在宅生活が困難となった場合の介護保険施設等での対応≫として、「認知症の症状が悪化し、在宅での対応が困難となった場合には、精神科病院への入院に頼ることなく、地域の介護サービスがその担い手となることを推進していく」ことが求められています。
具体的には、「介護保険の短期入所系サービスや介護保険施設で『認知症行動・心理症状緊急対応加算』として、期間を限定した形で緊急的な対応を評価しており、この評価を継続して実施する」と言っていますが、現実には、同じ報告書の≪認知症の人に対する介護の問題点≫の中に、「介護保険施設・事業所の職員の認知症への理解の不足から、本来は受入れ可能であるにも関わらず、認知症の人の入所・利用を拒否するなどの問題が生じている」、「介護保険施設等で、行動・心理症状(BPSD)への対応ができていないため、精神科病院に入院するケースが見られる」とされており、「認知症行動・心理症状(BPSD)緊急対応加算」が適切に適用されているとは、とても考えにくい状況になっていると思われます。
また、「認知症の人がなるべく早く在宅生活に復帰するためには、介護保険施設からの退所前等に入所者の居宅を訪問し、退所後の生活を想定したケアを提供することやサービス内容等について家族と連携することが重要であり、多職種協働による体制の整備を推進する」としていますが、介護保険制度は、介護老人福祉施設も通過施設として位置づけしていますが、今後は、要介護3~5に該当する方のみが入所することになれば、この報告が実効性のある施策につながるかについては首を傾げざるを得ません。
≪介護保険施設等での認知症対応力の向上≫として、「身近型認知症医療センター」なるものを新たに整備して、その職員や医師が介護保険施設等での認知症対応力の向上に資するための役割を持つとしています。
≪身近型認知症疾患医療センターの役割≫
①「身近型認知症疾患医療センター」の職員が、介護保険施設・事業所の職員に対して、行動・心理症状等で対応困難な事例へのアドバイスや、研修を行うなどの業務の充実を図る。
②「身近型認知症疾患医療センター」の医師が、必要に応じて、介護保険施設等に訪問して、行動・心理症状等の認知症の人に対する専門的な医療を提供する。
③「身近型認知症疾患医療センター」の医師が、一般病院や介護保険施設・事業所に訪問して、行動・心理症状の認知症の人に対する専門的な医療を提供すること等により、行動・心理症状の増悪による転院や入院の回避を支援する。
「身近型認知症疾患医療センター」は、認知症の早期診断・早期支援、危機回避支援を行う、身近なところに新たな類型の認知症疾患医療センターを整備するとされています。65歳以上人口6万人に1ヶ所の医療機関がどれだけのことが出来るのでしょうか、現存のシステムをうまく機能させることをなぜ考えないのかと思います。国の施策のムリ・ムダ・ムラがこれからも続いてゆくだけでなく、認知症の人のために介護と医療との連携を図ることも、ますます遠ざかってゆくだろうことを示唆しています。
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