認知症は何もわからなくなる病気ではなく、認知症になったからといって、その人のこれまでの生活や自分の歴史が消え去り失われるものではありません。その人の話に耳を傾けることができれば、その人個人にあったケアのあり方が見えてくることになります。
認知症ケアの基本的な理念として、パーソン-センタード・ケア(person-centered care)が提唱されています。パーソン-センタード・ケアは、特別なスタンスや取り組み、かかわりではなく、「いつでも、どこでも、その人らしく」という、その人を中心に据えた介護ケアを、常に心がけて実践することであるといえます。
ケアを提供する人の「仕事」に認知症の人を合わせ来た、介護者中心のケアは、かかわる側は楽だとしても、かかわられる側にとっては、心地よいとは限りません。また、認知症という病気に焦点を当てるのではなく、認知症の人が一人の人として、周囲に受け入れられ、尊重されることで、その人が何に苦悩し、何を求めているかを考え、その人を知ろうと努めることで、その人とどのようにかかわってゆくかを、その人とともに考えながら、その人の思いに添ったケアに取り組むことが重要になります。
認知症ケアの基本として、BPSD(行動・心理症状)は認知症の中核症状ではなく、中核症状を基本とした不安感や焦燥感、ストレス、生活環境、体調不良などの心理的要因、社会的要因、身体的要因が、症状発現のトリガーとなって引き起こされる周辺症状であり、その人の「心の表現」であるということを忘れてはなりません。
BPSDの予防・対応は、症状への対応よりもトリガーとなる要因を引き起こさないこと、トリガーとなった要因を取り除くことが優先されるという視点を持つことが必要となります。環境調整、整備を本人に添うように行ってゆくことが大切であり、本人の意思、行動をステレオタイプに対応してはなりません。その人なりの目的、意味、感情などを知るという視点が肝腎であります。
≪認知症の中核症状とケアの基本≫
■もの忘れ(直前のもの忘れが起こる)
⇒もの忘れを責めずに、根気よく対応すること
■見当識の障害(時間・場所・人物がわからなくなる)
⇒生活リズムの確立と環境の工夫・確認を行うこと
■思考力や判断力の障害(思考の連続性がなくなる)
⇒情報の簡素化と判断の材料を減らすこと
■実行機能の障害(物事の手順がわからなくなる)
⇒言葉かけによって手順を一つずつ説明すること
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