高齢者の幻覚・妄想というと、一般的には、認知症による「物盗られ妄想」や「嫉妬妄想」を考えてしまいます。幻覚・妄想には、認知症などに伴う器質性精神障害による幻覚・妄想だけでなく、認知症など器質性精神障害の無い高齢者にも機能性精神障害による「人物誤認妄想」や「体感幻覚症」などという幻覚・妄想が見られることがあります。
≪器質性精神障害の病因≫
●高血圧
●糖尿病
●心不全
●内分泌疾患
●アルコール依存症
●薬物(ステロイド、抗パーキンソン薬、など)
●認知症
●脳梗塞
●脳出血
など
≪機能性精神障害の病因≫
●遅発性統合失調症
●心因反応
●妄想性うつ病
●躁病
●妄想性障害
など
≪高齢者の幻覚・妄想の分類≫
Ⅰ.器質性精神障害によるもの
●物盗られ妄想
●嫉妬妄想
●人物誤認妄想
●迫害妄想
●レピー小体型認知症に伴う幻視
など
Ⅱ.機能性精神障害によるもの
●遅発性統合失調症
●シャルル・ボネ症候群
●皮膚寄生虫妄想
●体感幻覚症
●人物誤認妄想
●うつ病に伴う妄想(微小妄想、罪業妄想、心気妄想)
●音楽幻聴
など
≪高齢者に起こる幻覚・妄想の特徴≫
①何らかのきっかけがある
②身体的疼痛・不快感・違和感が初発症状
③電波、電磁波、光線、におい、として近く(偽幻覚)し、かつ解釈
④それらの体験による二次的妄想(迫害、関係、被害妄想)が発展
⑤妄想対象は隣人が多い(従来の不和軋轢がベース)
⑥女性に多い(10:1)
⑦単身、独居、社会的孤立者に多い
⑧難聴者に多い
⑨脳の器質的病変との関連が疑われる
⑩統合失調症との関連
高齢者の幻覚・妄想は、若年者に比べると心理・社会的要因や身体的要因といった環境要因が大きいと考えられています。脳・身体・心理・社会的な疾病、bio(からだ)-psycho(こころ)-social(くらし)が関連し合う代表的な疾患・症状と考えられます。高齢者の幻覚・妄想に対しては、否定も肯定もせずにゆっくりと話を聴いて、コミュニケーションを図りながら、良い関係性を保つことを心がけながら、医療機関への受診につなげることが必要となります。
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