高齢者が「話を聞き間違える」、「話について行けない」という場面が生じたり、高齢者に対して「話をするのに時間がかかる」、「話の内容を正しく伝えるのが難しい」と感じる場面がしばしば生じることがあります。コミュニケーションが十分に図れなくなったと周囲が感じて、その原因が耳の聞こえが悪くなったと考えても、加齢に伴う生理的な老化であるために、高齢者本人が自覚することが難しかったり、耳の聞こえの悪さを認めないことがあり、コミュニケーションだけでなく日常生活や対人関係にきしみが生じることがあります。
第一生命経済研究所が行った調査*によると、50歳以上の調査対象者のうちで、耳の聞こえにくそうな人や聞こえない人(両者を併せて難聴者)が身近にいたことがあるかという質問には、84.4%の人が「ある」という回答となりました。難聴者の年齢としては、60歳以上の高齢者が89.6%をしめており、中高年の世代の周囲には、高齢難聴者が非常に多くいて、日常的な聞こえに対して配慮しながらかかわりを行わざるを得ず、コミュニケーションの問題を常に感じていると考えられます。
難聴者の聞き取りがどの程度かという質問に対しては、「静かな所で、家族や友人と1対1で向かい合って会話する時」に聞き取れない割合は20.9%(5人に1人)でありますが、「4・5人の集まりでの話」を聞き取れない割合は38.3%(およそ5人に2人)となっており、身近な高齢者には、≪言語聴取能力が悪くなり雑音下での聴取能力が低下する≫という、老人性難聴の特徴を持つ人が数多く見られることが考えられます。
難聴者とのコミュニケーションの中で見られる状況では、「話を聞き間違える」が79.1%、「話についていけない」が65.1%、「あいまいに返事をする」が61.4%と過半数を超えているだけでなく、「話を理解しているふりをする」が45.8%となっています。
コミュニケーションの送り手が、過半数の難聴者とのコミュニケーションで、非常に話の内容が伝わりにくいと感じているだけでなく、「話を理解しているふりをする」という状況が過半数に近いことは、送り手が受け手に対して、コミュニケーションを行う際には、フィードバックを行うことがとても重要であると考えられます。
*出典:「高齢社会における聞こえの問題」株式会社 第一生命経済研究所:http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/note/notes0809.pdf)
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