高齢者は、加齢に伴う生理的老化によって感覚の閾値が高くなり、60歳を超えると急激に上昇することや、皮膚の痛点の分布も加齢に伴って減少して行き、高齢者では若年者の約半分になること、神経伝達速度も加齢に伴って低下することがわかっています。痛覚の閾値の上昇、痛点の減少、神経伝達速度の低下などによって、高齢者には、痛みに対して自覚されにくい傾向があると考えられています。
高齢者が痛みを自覚しにくい傾向があり、痛みに対して鈍感であるとされる一方で、高齢者の愁訴の第一は、身体各部の疼痛であるとされています。高齢者のうち25~50%が、何らかの疼痛を抱えているといわれており、高齢者の疼痛の原因として最も多いものが、腰痛(17.1%)で、その次に多いものが関節痛(14.5%)となっています。
疼痛は、≪急性疼痛≫と≪慢性疼痛≫に分けられて、≪慢性疼痛≫は、「治療を要すると期待される時間の枠組みを越えて持続する痛み、あるい進行性の非がん性疾患に関連する痛み」と国際疼痛学会によって定義されています。
≪慢性疼痛の分類≫
①侵害受容性疼痛:長期間にわたり侵害刺激が加わり続けるもの
②神経障害性疼痛(末梢性・中枢性):初期の神経障害が消失した後に長期間持続するもの
③混合性慢性疼痛:侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混在するもの
④自発性慢性疼痛:痛みの原因となる組織病変が存在しないもの
⑤心因性疼痛:心理的要因、社会的要因などが影響しているもの
高齢者の疼痛の原因とされる疾患には、帯状疱疹後神経痛、変形性膝関節症や変形性脊椎症による腰下肢痛、三叉神経痛、癌性疼痛、五十肩、頸肩腕症候群などがあります。高齢者の疼痛では、若年者と比べると痛みやうつ状態の程度は強くないものの、活動・行動に著しい制限が見られるという特徴があります。
高齢者では、疼痛の慢性化により、慢性疼痛や難治性の疼痛となることで、IADL、ADLに影響を及ぼして、QOLの低下を引き起こし、不活発病の併発、さらには認知症の発症に至る可能性があると考えられます。
≪疼痛の確認・理解≫
●痛みの部位
●疼痛の程度
●疼痛の性状:熱傷のよう、電気が走るよう、針で刺されるよう、圧迫されるよう、拍動性など
●疼痛の出現様式:自発痛もしくは誘発痛、持続性もしくは発作性
●痛みのきっかけ、原因として考えられる疾患や外傷、活動・行動など
●疼痛の経過
●疼痛の増悪因子・緩和因子
●疼痛の日常生活への影響:睡眠、食欲、運動、気分、活動性など
●抑うつ傾向、不安などの精神状態
●過去に受けた疼痛治療とその効果や副作用など
●家族関係上の問題と痛みとの関係
など
痛み、疼痛は、本人以外にはわかりにくいものであり、治療に時間がかかる上に、思うように症状が改善されにくいものである事が、IADLやADLへ影響し、QOLの低下を引き起こすと考えられます。疼痛の愁訴を持つ方に対して寄り添うようにして、日常生活の活動性の維持と、治療への取り組みを行ってゆく事で、心身の状態の安定とQOLの向上を図ることが必要と考えられます。
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