前立腺肥大症(BPH)とは、前立腺が肥大して、様々な排尿の症状を引き起こす疾患で、男性ホルモンなどの性ホルモンや環境の変化が関与するといわれています。前立腺は、通常では20ml以下で、おおよそクルミ程度といわれていますが、前立腺肥大となると、鶏卵やみかんの大きさになることがあります。
前立腺肥大症が発症する危険因子は、加齢、遺伝、食生活、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常などで、前立腺肥大症の頻度は、加齢に伴い増加し、50歳からより増加して行きます。加齢に伴う生理的老化による組織学的な前立腺肥大は、30歳代からはじまって、50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%に見られるようになります。
前立腺肥大は、加齢に伴う生理的老化によって誰にでも生じるものですが、病的老化となることで、治療が必要となる前立腺肥大症に至るわけではなく、およそ1/4程度が前立腺肥大症になるといわれています。
前立腺肥大症では、①排尿症状:排尿困難をはじめとする、尿を出すことに関連した症状、②蓄尿症状:尿を溜めることに関連した症状、③排尿後症状:排尿した後に出現する症状が見られるようになります。
①排尿症状
●尿が途中で途切れる(尿線途絶)
●尿の勢いが弱い(尿勢低下)
●おなかに力をいれないと尿が出ない(腹圧排尿)
●尿が分かれる(尿線分裂)
●排尿の途中で尿が途切れる(尿線途絶)
●尿が出始めるまでに時間がかかる(排尿遅延)
●排尿の終わり頃にいつまでもポタポタと尿が出る(終末滴下)
など
②蓄尿症状
●トイレが近い(頻尿)
●急に、尿意をもよおし、もれそうで我慢できない(尿意切迫感)
●夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
●切迫性尿失禁
●尿意切迫感+頻尿⇒過活動性膀胱(50~70%で合併症として見られる)
など
③排尿後症状
●排尿後に、まだ尿が残っている感じがする(残尿感)
●排尿が済んだと思って、下着を着けると尿がたらたらっと漏れて下着が汚れる(排尿後尿滴下)
など
前立腺肥大症の症状が進行することにより、肉眼的血尿や尿路感染症、尿閉などの合併症が生じる可能性が出て来ます。
●肉眼的血尿⇒前立腺肥大のために、尿道粘膜の充血が生じ、そのために前立腺部の尿道粘膜から出血が起きて、血尿が出やすくなる。
●尿路感染⇒排尿障害により、膀胱内に残尿が生じて、尿路感染が起きやすくなる。
●尿閉⇒前立腺肥大が高度な場合や、飲酒、風邪薬の服用が要因となる。尿意を我慢することで起きる場合もある。
●膀胱結石⇒膀胱内に常に残尿がある状態が長期間続くと、膀胱内に結石が生じる場合がある。
●腎機能障害⇒膀胱内に多量の残尿が生じたり、排尿障害によって膀胱壁が高度に肥厚すると、腎臓から膀胱への尿の流れが妨げられて、腎臓が腫れる水腎症となり、腎不全になることがある。
●溢流性尿失禁⇒膀胱内に常に多量の残尿があるために、腎臓からの尿が膀胱容量を超えてしまい、蓄尿が出来なくなって、尿道から尿が常に漏れ出してしまう状態になる。
野菜、穀物、大豆などに多く含まれているイソフラボノイドは、前立腺肥大症の発症抑制効果があることが指摘されています。前立腺肥大症と喫煙、アルコール、性生活との関係は明らかでにはなっていません。
前立腺の疾患には、前立腺肥大症のほかに前立腺がんがありますが、前立腺肥大症と前立腺がんとは、症状が似ているものの、病変部位が異なる疾病であります。前立腺肥大症は、前立腺の内腺組織が肥大する疾病で、前立腺がんは、前立腺の外腺組織ががん化する疾病であり、前立腺肥大症から前立腺がんへの移行は無いといわれています。
前立腺がんの初期には、自覚症状が現れにくいことから、PSA(前立腺特異抗原)量の測定を行うことで、前立腺がんのスクリーニングを定期的に受ける事が、前立腺がんを早期発見・早期治療するための対策として奨められています。
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