大腿骨の股関節側で生じる近位部骨折は、①骨頭、②頸部、③頸基部、④転子部、⑤転子下の5ヶ所で起きるものであります。大腿骨近位部の骨折で高齢者に多い骨折は、②頸部、④転子部の2ヶ所で生じます。ヒトの関節は、関節包という組織で包まれています。大腿骨頸部骨折は、関節包の内側で生じた骨折のため、大腿骨頸部内側骨折と呼ばれ、大腿骨転子部骨折は、関節包の外側で生じた骨折のため、大腿骨頸部外側骨折と呼ばれ、療法を合わせて大腿骨頸部骨折と呼ばれることもあります。
大腿骨頸部・転子部骨折は、40歳から年齢とともに発生率は増加し、70歳を過ぎると急激に増加して行きます。人口1万人当たりの年間発生数は、70~79歳では、男性・17人、女性・41人、80~89歳では、男性・57人、女性・148人、90歳以上では、男性・129人、女性・281人と推計されています。高齢者の大腿転子部骨折は、大腿骨頸部骨折の約1.3~1.7倍となっています。
大腿骨頸部・転子部骨折の骨に関連した危険因子は、①骨密度の低下、②脆弱性骨折の既往、③骨代謝マーカーの高値、④親の大腿骨頸部・転子部骨折の既往、⑤甲状腺機能亢進症、⑥性腺機能低下、⑦糖尿病、⑧腎機能低下、⑧膝痛などがあります。
骨に関連しない危険因子は、①転倒回数が多いこと、②喫煙、③向精神薬の服用、④加齢、⑤低体重、⑥多量のカフェイン摂取、⑦未産などとされています。
高齢者の大腿骨頸部・転子部骨折の原因は、転倒や転落であると言えます。若年者では起こりえないような、つまづいたり、足を捻ったり、ベッドから落ちるなど、軽い外力がかかることで生じる可能性があります。骨折が生じた場合には、股関節部に痛みと腫れが見られて、立位や歩行が困難になります。
骨折直後には、痛みが無かったり、立ち上がったり歩いたり出来ることや、認知症のある方では、意思表示や意思疎通が難しくて、発見が遅れるということもあることから、転倒を起こさないことが一番でありますが、万一、転倒した場合には、転倒後の動作や心身の状態に注意することが必要と考えられます。
大腿骨頸部・転子部骨折の予防は、①折れにくい骨を作ること、②転倒しにくい環境を整えることになります。折れにくい骨を作るには、骨粗鬆症の予防・治療を行うことが重要になります。また、ヒッププロテクターも転倒の際の骨折予防になるとされています。
大腿骨頸部・転子部骨折が起きてしまった場合には、全身状態が許せば早期に手術を行い、ADLの低下を防ぐために、手術後は可能な限り速やかにリハビリを開始することが望ましいとされています。痛みがあるために、ベッド上などで安静にしている事は、筋力低下や関節拘縮、褥瘡、肺炎、尿路感染症などが生じる可能性が高くなり、ADLの低下ばかりか、生命予後の短縮を引き起こしてしまうといわれています。
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