脊髄小脳変性症は、運動失調を主症状とする神経変性疾患の≪総称≫です。脊髄小脳変性症には、小脳、脳幹、脊髄とそれに関連する領域の中枢神経細胞の変性によって、様々な症状が徐々に発現して、ゆっくりと進行するという経過を示す、運動失調を主症状とする数多くの異なる疾患が含まれています。
脊髄小脳変性症は、我が国では、10万人当たり4~10人となっており、遺伝性のものと孤発性(非遺伝性)のものに大きく分けられます。脊髄小脳変性症の約30%は遺伝性のものであることがわかっています。脊髄小脳変性症の診断は、運動失調の症状が脳血管障害、炎症、腫瘍、多発性硬化症、内分泌異常、薬物中毒などによって生じる二次性の運動失調症である事が否定されなければなりません。
遺伝性の脊髄小脳変性症には、遺伝子異常の違いから、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、2型(SCA2)、3型(SCA3)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、アプラタキシン欠損症などがあります。
孤発性の脊髄小脳変性症には、多系統萎縮症として分類されているオリーブ橋小脳萎縮症、シャイドレーガー症候群、線条体黒質変性症や皮質性小脳萎縮症があります。
<図1>脊髄小脳変性症の分類
脊髄小脳変性症の症状は、運動失調の症状が徐々に発現して、ゆっくりと進行して行きます。進行には個人差が見られ、疾病ごとに主症状である運動失調以外の異なる症状が出現して行きます。
≪脊髄小脳変性症の症状≫
●運動失調(小脳失調):筋力は正常なのに、筋肉が協調して動かず運動が円滑に出来ない状態
⇒体幹失調:起立、歩行の不安定、千鳥足歩行、転倒しやすい、自転車も困難
⇒言語障害:不明瞭で聞き取りにくい
⇒四肢協調運動障害:手の細かい動作が困難、書字困難、手足の動きがぎこちなく、ちぐはぐになる
⇒嚥下障害:食物や水分などが飲み込みにくくなる
●不随意運動:手足の振戦、身体の一部の筋肉が勝手に動いてしまう
●錐体外路症状(パーキンソニズム):動作緩慢(無動)、筋固縮・強剛(筋肉が硬くなる)、姿勢反射障害
●錐体路症状:痙縮(手足のつっぱり)
●自律神経症状:起立性低血圧、食事性低血圧、排尿・排便障害、発汗障害
●眼振:眼球が勝手に動き、景色が揺れたり、2つに見えるなど
●睡眠異常:睡眠時無呼吸、睡眠時異常行動
など
日常生活での留意点は、運動失調があっても必ずしも筋力は低下していないので、ゆっくりと正確に行えば、動作の維持が可能なことがあります。運動・動作を行わなければ、かえって筋力の低下を引き起こしてしまうことになります。残存能力の活用を図り、意欲的にやっていることの維持、やれることへの取り組みが行えるようにすることが必要と考えられます。
運動機能の低下は見られても食欲は保たれていることから、運動不足によるカロリーオーバーに注意する必要があります。発汗障害が見られる場合には、体温調節機能の低下に注意しなくてはなりません。また、起立性低血圧、食事性低血圧への配慮も必要となります。
感染症(特に肺炎)、脱水や下痢などによる衰弱、食事量低下による低栄養、転倒による骨折、服薬の急な中断などに伴い、動きにくさが悪化することがあります。また、病状の悪化につながる可能性があることから、節酒、禁煙が求められます。余病の併発を防ぐために、うがい手洗い、十分な睡眠と水分補給、適切な食生活と運動が必要となります。
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