知能とは、課題に対して、合理的・合目的的に考え、環境からの働きかけに効果的・効率的に対処する能力と考えられます。
知能の発達は、古典的な考え方では、加齢に伴って成年期に至るまで成長して行き、成年期以降は徐々に低下すると考えられていました。知能の多次元性が考えられるようになってから、知能の発達については、動作性知能に比べると言語性知能は低下が緩やかであることが認められています。
<図1>知能と加齢
知能には、多因子から成り立っていると考えられるようになり、流動性知能と結晶性知能に大別されると考えられるようになりました。
流動性知能は、新しい知識や行動などを取得する能力や、新しい環境に適応するために必要となる課題解決能力で、脳の発達や個体の成熟との関連性が強い知能と考えらます。流動性知能の発達は、30歳代から40歳代後半にピークに達して、60歳までピークが続き、その後は徐々に低下してゆき60歳代後半から下降が著しくなります。
結晶性知能は、学校での教育だけで無く、日常生活や仕事上の経験などを蓄積した結果によって得られる結晶をもとに、日常生活で生じる課題に対する判断力、理解力などの能力や、一般常識と言われる能力と考えられます。結晶性知能の発達は、60歳すぎにピークに達して、その後は緩やかに下降して行きますが、70歳代でも20歳代に近い能力が保たれています。
<図2>流動性知能と結晶性知能の発達曲線
中年期から老年期の知能は、結晶性知能の維持により、流動性知能の低下が補完されます。中年期から高齢期にかけては、流動性知能よりも結晶性知能が日常生活上では、より重要であると考えられます。
身体の健康と知能とは関連しており、脳血管疾患、心臓血管系疾患、重度の高血圧などによって、知能の病的老化は引き起こされます。知能の維持、低下の防止には、身体的健康管理が重要となります。また、ライフイベント(引退、死別、離別、疾病などによる社会的孤独)の影響で知能が低下する事もあります。
ライフスタイル(社会関係、社会活動)も知能に影響すると言われています。
≪ライフスタイルと知能≫
普通の人⇒多くの能力が維持
恵まれた人⇒しばしば得点が向上
傍観者的な人⇒全体的に能力が低下
孤独な人⇒すべての得点で著しい低下
(出典:知的機能の変化と適応・東京大学高齢社会総合研究機構)
加齢に伴い新たなことを学習したり、新しい環境に順応したりする流動性知能は低下しますが、教育や経験に基づく判断や知恵といった結晶性知能は高まり、加齢によっても若年者と同等以上の知能が保たれます。
結晶性の知能の維持は、それまでに歩んできた人生および現在の各人の健康状態、家庭環境、社会的環境などに影響を受けていることから、見かけの状態で判断するのでは無く、個別性と多様な価値観を尊重し、高齢者の尊厳を守ることを考えながらかかわりを持って行く事が必要となります。
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