造血機能は、骨髄やリンパ節、胸腺、脾臓が担っています。造血機能を担う臓器の中で、骨髄は、血液の細胞成分となる赤血球や白血球、血小板の生成と血液幹細胞の再生、リンパ系前駆細胞を胸腺や脾臓に送り出す機能を持ち、「血液の工場」と呼ばれています。リンパ節では、リンパ球の産生とリンパ管の中継や異物処理を行っています。胸腺では、骨髄から送り込まれたTリンパ球前駆細胞がTリンパ球になります。脾臓では、血液中の異物処理や老化赤血球、異常赤血球の除去、血小板の貯蔵、Bリンパ球の成熟が行われます。
骨髄では、加齢に伴って血液幹細胞の再生と血液細胞の生成を行う細胞髄(赤色髄)が減少し、脂肪細胞が占める脂肪髄(黄色髄)に置き換わることによって、造血能力が変化して行きます。骨髄の造血能力は、加齢に伴って低下して行きます。生理的老化に伴う造血能力の変化によって、赤血球の産生の変化が、日常生活に影響を及ぼすことはほとんどありません。また、生理的老化に伴う造血能力の変化によって、白血球と血小板の数の増減は一般的には起こらないと考えられています。
骨髄の細胞髄にある造血微小環境や造血幹細胞に量的・質的な変化が、加齢に伴って生じることによって、造血能力の変化が起きることがわかって来ました。造血能力の変化が生じても、生理的には日常生活に影響を及ぼすほどではありません。
しかし、抗がん剤の投与や放射線の照射というストレッサーを、骨髄の細胞髄が受けると、高齢者では骨髄の造血機能のストレス耐性が低くなっているために、骨髄の細胞髄がストレスを得た結果(ストレス反応)として、骨髄の造血機能に若年者には見られない低下が生じてしまうことがあります。
骨髄の造血機能に変化が見られても、生理的には日常生活に影響を及ぼす事は少ないと考えられますが、免疫機能の変化が特徴的に現れます。胸腺で産生されるTリンパ球は、加齢に伴って機能が変化して行き、以前に遭遇した抗原に対する免疫機能は保たれているものの、新しい抗原に遭遇した場合には免疫機能が低下していることが、高齢者の加齢による免疫機能の変化の特徴となっています。
造血機能の加齢による変化は、生理的には日常生活に影響を及ぼすことは、ほとんど考えられませんが、造血能力の量的・質的な変化は起きており、抗がん剤の投与や放射線の照射による造血機能の低下や、新しいウィルスや細菌、物質などの抗原に対する免疫機能の低下によって、心身の状態に大きな変化が生じる事になり、自律した日常生活の維持や、QOLに影響を及ぼすものと考えられます。
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