嗅覚は、鼻腔の上方にある嗅覚器にある嗅細胞が、匂い分子を受容する事で、匂いを検知して識別しています。匂いは、嗅細胞がある嗅上皮が嗅粘液で覆われているために、わずかでも水に溶ける物質でなければ、匂い物質として認知されません。
ヒトの嗅覚の役割は、①危険予知、②食物検知、③異性探知であると言われます。嗅覚は、すべてのヒトがほぼ同じ嗅覚力を持っていて、訓練をすることによって識別能力が高くなる一方で、同じ匂いに対しては、数分で匂いを認知しなくなる順応が起こるという特性を持っています。
嗅覚は、加齢による生理的老化に伴って閾値が上昇して、匂いの認知弁別能も低下します。嗅覚の認知力の老化は、中年期の早い時期に認知できなくなるメルカプタンの匂いがある一方で、80歳代以降でも認知できるバラの匂いがあるというふうに、匂いによって異なりますが、70歳代になると誰でも匂いの検知閾値が上昇して、80歳代になると6~8割が嗅覚低下を示すと言われています。
嗅覚の病的老化には、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患があります。アルツハイマー病では、疾病発症の初期から匂いの検知閾、認知閾の上昇が確認されており、疾病の進行により嗅覚の消失が起こります。パーキンソン病も疾病発症の初期から嗅覚障害が生じますが、アルツハイマー病とは異なり嗅覚障害の進行はさほど見られないと言われています。
嗅覚の受容器である嗅細胞は、神経細胞の中でも特殊な細胞で、常に外界に曝されており、有害な化学物質により損傷されやすいために、定期的に新しい細胞が損傷のある細胞と交換されます。加齢に伴う生理的・病的老化によって、嗅細胞の再生能力が低下するために、嗅細胞数が減少することが、嗅覚機能の低下する原因のひとつであると考えられています。
嗅覚の変化は、味覚や風味の変化も生じます。嗅覚が減退、消失すると味覚が減退、消失してしまい、食物の味を感じる事が出来なくなります。
嗅覚の変化は、ヒトが生命を維持するために必要である危険予知や食物検知が困難になるだけでなく、食生活に変化を及ぼす事になり、生命の維持だけでなくQOLにも大きな影響を及ぼす事になります。
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