言語には、音声言語と文字言語があります。言語能力を確かめるには、文字言語に対する文字を読んだり書いたりする機能と、音声言語に対する言葉を聞いたり話したりする機能があります。
文字を読む機能は、目という受容器で文字情報を得て、脳に情報を伝えて、脳が情報を処理します。文字を書く機能は、脳が情報を手という効果器に伝えて、手が筆記具などを使って文字を書きます。言葉を聞く機能は、耳という受容器が音声情報を得て、脳に情報を伝えて、脳が情報を処理します。言葉を話す機能は、脳が情報を発声器官という効果器に伝えて、発声器官が言葉を発します。
文字を読むための言語能力は、漢字の読み方が熟語によって異なることから、熟語ごとに読みを憶えなくてはならず、漢字熟語の読みやすさは、熟語の出現頻度と個人の読書体験によって異なると考えられています。漢字熟語を読む能力について、20歳の若年者と70歳の高齢者を対象にして、音読と黙読の速さを測定すると、音読の速さは若年者が勝りますが、黙読の速さは同じくらいになるという結果が出ています。
老人性難聴になると言葉の聴き取りが悪くなりますが、どのような言葉でも同じように聴き取りにくくなる訳では無くて、出現頻度が低い低頻度語の聴き取りが特に悪くなります。聴力が正常な健聴者に対して、音声に雑音を加えて聴き取りを行わせると、若年者、高齢者にかかわらず低頻度語の聴き取りが悪くなります。
言葉を話すための能力のうち、言葉を思い出す能力(喚語能力)は、加齢に伴う生理的老化が生じる事が明らかなものとなっており、40歳で既に喚語能力の低下が始まる事がわかっており、固有名詞、特に人の名前を思い出す事が難しくなると考えられています。
語彙を保持するための言語能力は、喚語能力に左右されてしまうことから、加齢に伴って低下すると考えられがちです。喚語能力に影響されずに、語彙数を調べる方法として、単語を見せて、見たことがあるかどうか尋ねる測定を、20歳の若年者と70歳の高齢者を対象にして行った結果では、高齢者は若年者の1.3倍の語彙数を知っていると推定されました。
言語能力は、加齢に伴って喚語能力(話すための能力)のように低下するものや、黙読能力(読むための能力)のように保たれるもの、語彙数(理解・保持する能力)のように上昇するものがあります。また、発声能力や聴力の低下という、音声言語の受容器や効果器の加齢に伴う老化によって、言語能力そのものの低下では必ずしも無いにもかかわらず、言語能力が低下したと見なされてしまうことが起きてしまいます。
読む・書く・聞く・話すという言語機能は、加齢に伴う生理的老化によって、受容器・効果器の機能が低下するために、変化が生じる場合があります。言語機能の変化は、受容器・効果器の機能が低下するものであって、言語能力の加齢に伴う変化であるとは限らないことに、高齢者とのかかわりを行う上では注意が必要となります。
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