介護保険制度は、「高齢者を社会全体で支える」ことを目的として、平成12年(2000年)4月1日に開始されました。介護保険制度では要介護認定と介護支援専門員(ケアマネージャー)の二つが全く新しい仕組みとして生まれました。
要介護認定の仕組みは、全国一律となる調査方法による認定調査及び主治医意見書とコンピュータ判定システムの結果に基づいて行われる要介護認定審査会によって、要介護・要支援認定が行われることになりました。認定調査は、コンピューター判定システムにデータとして入力するために選定された調査項目となっています。
要介護認定のコンピューター判定システムは、「1分間タイムスタディ」によって作成されたものですが、要介護認定の対象者は在宅生活を送っている高齢者が圧倒的に多いにもかかわらず、「1分間タイムスタディ」のデータは、全国の特別養護老人ホームや老人保健施設、介護療養型医療施設を利用ししている高齢者を対象にしたものとなっています。
施設を利用している高齢者の「1分間タイムスタディ」によって得られた「介護の手間」は、在宅高齢者の「介護の手間」を表していないことは明らかであります。要介護認定のコンピューター判定システムを構築するにあたって、在宅高齢者に対するタイムスタディは行われたようですが、望ましい結果が得られなかったようでした。
要介護認定のコンピューター判定システムが、在宅高齢者の「介護の手間」を反映していないことは、国も認知していたようであり、介護保険制度が始まってからも在宅高齢者へのタイムスタディは試行的に行われました。試行の結果については、国の担当者は必ず報告をすると言明していましたが、望ましい結果が得られなかったためか、報告を得る事は出来ませんでした。その後の在宅高齢者への取り組みについては、残念ながら確認ができておりませんが、未だに要介護認定のコンピューター判定システムは、施設利用者の「介護の手間」によって要介護度を判定し続けられています。
介護保険制度の新しい仕組みであるとともに、要と言えるもう一つの介護支援専門員(ケアマネージャー)は、介護保険制度が開始される時に、介護保険制度に移行されるサービス・支援が切れ目無く利用できるよう準備が整えられている必要がありました。介護保険が始まる時に必要とされる介護支援専門員を確保するという国の目論見は、諸般の事情により崩れ去ってしまい、介護支援専門員となるための試験の合格ラインは、一定の点数を取れば合格となりました。そのために大量の合格者は出たものの、実際にどれだけの介護支援専門員実務研修修了者が介護支援専門員として仕事をするかがつかめなくなってしまいました。
様々な職種を母体とする介護支援専門員が生まれ、介護保険制度の開始時点で、介護保険制度に移行する介護サービス利用者へのケアプラン作成とサービス・支援の提供開始準備が行われていることが最優先となり、介護支援専門員がケアマネジメントを満足に行うことが出来ませんでした。
介護保険開始時までの不十分な介護支援専門員への研修や支援の体制が、介護保険開始時の介護支援専門員のケアマネジメント能力不足となり、偏りや不十分なケアプランとなって介護サービス・支援の提供が始まってしまいました。介護保険開始時に不十分な体制やケアマネジメントの問題が、未だに介護支援専門員への研修や支援の体制作りやケアマネジメント能力の問題ばかりか介護支援専門員不要論が唱えられる原因となっていると考えられます。