薬物依存は、中枢神経系に対して興奮や抑制の薬理効果(薬効)のある物質(薬物)に対して、薬物を連用することで身体的・精神的な依存が生じてしまう状態です。
薬物依存となる薬物が作用する脳の部位は様々ですが、脳内のA10神経系の異常が共通して見られることがわかっています。A10神経系の異常が、薬物依存の原因であるとされています。A10神経系の異常は、治癒することはないと考えられており、薬物依存は慢性疾患と同様に、薬物を断ち、再使用・乱用しないように自己コントロールし続けることが必要となります。
<図1>脳内報酬系(A10神経系)
薬物の使用について調査が行われ、2009年の調査による結果では、「これまでに1回でも使ったことがある人の割合(生涯経験者率)」が、有機溶剤で1.9%、大麻で1.4%、覚醒剤で0.3%、MDMAで0.2%でありました。生涯経験者率の結果が100人あたりの比率で示されていることは、薬物の使用が想像以上に蔓延していることを示していると考えられます。
薬物依存には、薬物を社会的許容から逸脱した目的や方法で自己使用する≪薬物乱用≫、薬物の使用を自己コントロール出来ずにやめられない状態の≪薬物依存≫、薬物の乱用や依存による≪薬物中毒≫という状態が深く関係をしています。
<図2>薬物乱用・薬物依存・薬物中毒(出典:みんなのメンタルヘルス/厚生労働省)
<図3>薬物乱用・薬物依存・薬物中毒と3種類の乱用者(出典:みんなのメンタルヘルス/厚生労働省)
薬物依存は、精神依存と身体依存のふたつの状態が生じて、様々なこころとからだの症状が現れます。乱用が続いて慢性中毒の状態となれば、離脱時に異常な症状が出るだけで無く、こころとからだの崩壊にまで至る可能性が出て来ます。
<図4>乱用される薬物と心身への影響(薬物問題 相談員マニュアル/厚生労働省)
薬物依存を完治させることは、A10神経系の完全な修復が困難と考えられていることから、不可能と考えられますが、薬物依存からの脱却は可能であります。
薬物依存からの脱却は、薬物の使用を断ち、薬物への渇望を制御し、自己コントロールによって再使用しないことが唯一の手立てとなります。
薬物依存からの脱却は、自分自身だけで行い続けるのはとても困難なことであり、体系的な治療プログラムが行われている医療施設や相談所の利用、ダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center)やNA(Narcotic Anonymous)などの自助活動に参加し続けることが望まれます。