アルコールは「百薬の長」と言われて、嗜好の範囲で適正量をたしなむ程度であれば、こころとからだの健康に良いものでありますが、嗜好から嗜癖となり、さらに嗜癖から依存となってしまうと、「百害の毒」となってしまいます。
アルコールの摂取量(酒量)が増えることで、正常飲酒からアルコール依存へと辿って行く危険性が高まります。アルコール依存に至らずとも、多量飲酒となることでアルコールに関連する問題の数と大きさは増加して行きます。アルコールに関連する問題は、健康問題だけで無く社会問題も生じます。WHOは、健康問題だけでも60以上の疾病がアルコールによって生じているとしています。
<図1>飲酒量とアルコール依存との関係
<図2>アルコール関連問題
アルコールの摂取の「適度な飲酒」と「多量飲酒」の基準について、厚生労働省が「健康日本21」の中で、定めています。
○適度な飲酒=1日平均20g程度の飲酒
●多量飲酒=1日平均60gを超える飲酒
飲酒量の基準は、酒に含まれる純アルコール量(g)で定めたものです。
<図3>各酒類のドリンク量(1ドリンクは10g)
2003年の全国成人に対する実態調査では、多量飲酒者が860万人、アルコール依存の疑いのある者が440万人、要治療と考えられるアルコール依存者は80万人という推計結果が出ています。人口の高齢化による高齢者や女性の社会進出などによる女性のアルコール依存者の増加が顕著となっています。
アルコール依存の原因は多量飲酒ですが、同じ飲酒量、飲酒習慣でも個体差が見られ、誰もがアルコール依存になるとは限りません。アルコール依存には、遺伝要因が大きくかかわっていると考えられており、アルコール依存の原因の50~60%は遺伝要因で、残りが環境要因と考えられています。
アルコール依存の原因となる遺伝要因は、アルコール代謝酵素である2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きの強弱や神経細胞の受容体等の遺伝的差異によるアルコールに対する低反応性などがあるとされています。
<図4>体内のアルコール分解プロセス
アルコール依存の症状は、お酒を飲むべきで無い時にも飲みたくなる「飲酒渇望」やついつい長い時間や多量を飲んでしまう飲酒行動の「コントロール障害」、「連続飲酒」などアルコールへの≪精神的な依存≫、脳がアルコールが体内にある状態を平常と認知してしまい、血中アルコール濃度の減少に伴って様々な「離脱症状」が見られる≪身体的な依存≫が現れます。
アルコール依存の症状には、精神的な依存や身体的な依存だけでなく、「百害の毒」となってしまうことから、こころやからだの疾病が併発することになります。
<図5>主な離脱症状
アルコール依存の治療は、入院治療が主体となっています。入院治療の流れは、「解毒治療⇒リハビリ治療⇒退院後のアフターケア」の3段階となっています。アルコール依存は、断酒を一生続けなくてはならないものであり、スリップ(再飲酒)することも多いことなどから、アルコール依存に対する専門治療が行えるアルコール専門病院へ入院しすることが望まれます。
アルコール依存からの脱却は、退院後のアフターケアを続けられるかにかかっています。退院後のアフターケアは、①アルコール依存専門の病院・クリニックへの通院、②抗酒剤の服用、③自助グループへの参加を続けて行くことになります。
<出典>
図1・2・4・5:みんなのメンタルヘルス/厚生労働省
図3:情報ボックス アルコール/久里浜医療センター
<参考>
AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-021.html
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol_test1.html(男性版)
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol_test2.html(女性版)
久里浜病院情報ボックス
http://www.kurihama-med.jp/info_box/index.html