口腔内には数多くの常在菌が棲息していて、ヒトが健康な状態であれば共生しています。加齢による生理的老化によって唾液の分泌、咀嚼機能、嚥下機能などの低下や免疫機能の低下により、歯周病菌、虫歯菌の繁殖や病原性微生物が侵入し定着することになり、口腔内の環境が悪化します。口腔内の環境が悪化することで、新たに定着した病原性微生物や歯周病菌、虫歯菌だけでなく常在菌も病原性微生物として増殖を始めることになります。
口腔内の環境悪化による病原性微生物の増殖は、口腔内の疾患を発症させるだけでなく、全身性疾患や日和見感染の原因となります。口腔ケアは口腔内環境の維持・改善による感染症防止だけでなく、心身の健康の維持・改善やQOLの向上にもつながります。
介護職員が口腔ケアを行う際に注意しなくてはならない利用者の主な疾患は、①インフルエンザ(飛沫感染・接触感染)、②ノロウイルス(飛沫感染・空気感染・接触感染)③結核(空気感染)、④B型、C型肝炎(血液・体液感染)、⑤HIV(血液・体液感染)、⑥MRSA(接触感染)などがあります。
口腔内の常在菌は、介護職員が健康な状態で、手指などに傷や手荒れが無ければ、皮膚に常在菌が付着したとしても、日常的手洗いを行う事で洗い流されて感染の可能性はほとんどありませんが、利用者に口腔ケア中に噛まれたりして傷を負う可能性や利用者の歯ぐきなど口腔内の出血が見られる場合がありますので、スタンダード・プリコーションの励行は必要と考えられます。利用者が感染症を発症している場合には、スタンダード・プリコーションに加えて各感染経路別の対策を行う必要があります。
口腔ケアを行う器具を清潔に保つ事も、重要な感染予防となります。歯ブラシは流水で良く洗って、十分に乾燥させます。時々、熱湯で消毒します。コップや受け皿も流水で良く洗い、十分な乾燥を行う必要があります。歯ブラシと同様に、時々、熱湯や消毒液で消毒を行う必要があります。口腔ケアで使用する歯ブラシ、コップなどの器具は共用せずに、利用者の専用としなくてはなりません。
感染症を持つ利用者は、抵抗力が低下していて病原性微生物の定着が容易になっていると考えられます。介護ケアを行う介護職員は、利用者への感染を引き起こさないためにも日常的に健康状態に注意し、「持ち込まない」、「持ち出さない」、「拡げない」を心がけなくてはなりません。