O157は、腸管出血性大腸菌の一種です。O157の大腸菌としての性状は、ヒトの常在菌の大腸菌とほぼ同じと考えられますが、最大の特徴はベロ毒素を産生する事です。O157以外にもO1、O26、O111、O128,O145などの型に、ベロ毒素を産生するものがあることがわかっています。
O157は熱に弱く、75℃で1分間加熱すれば死滅します。低温条件には強く、家庭の冷凍庫では生き残ることが可能と考えられています。酸性の環境にも強く、pH3.5程度でも生き残ります。水の中でも長期間生存します。感染力は強く、約50~100個の菌で感染すると言われています。
腸管出血性大腸菌・O157に感染した場合には、無症状で終わるものから軽い腹痛や下痢のみで終わるもの、頻回の水溶性便、激しい腹痛、著しい血便と共に重篤な合併症を引き起こし、最悪の転帰に至るものまで様々な経過を示します。
O157に感染した約半数の感染者では、3~5日の潜伏期の後に頻回の水様便が始まることで腸管出血性大腸炎の発症となります。さらに水様便に加えて激しい腹痛を伴い、著しい血便が見られるようになります。腸管出血性大腸炎の症状が見られた場合には、数日から2週間以内に約6~7%の発症者で溶血性尿毒症症候群または脳症などの重症合併症が発症します。
O157は、ウシ、ヒツジ、シカなどの反芻動物の大腸に棲息しており、宿主動物の腸内容物で汚染された生肉や土の付いた野菜などの食品や水を飲食することで経口感染をする感染症です。感染者からの二次感染が多く見られることから、二次感染予防のために日常的手洗いを「1ケア1手洗い」、「ケア前後の手洗い」の原則に沿って行う事はもちろんのこと、スタンダード・プリコーションに加えて、接触感染の予防策を行うことが必要となります。
食品に関する扱いについては、①生野菜などは良く洗う。②食肉は少なくとも75℃で1分、中心部まで加熱した上で速やかに食べる。③調理した食品は、直接手で触れないように注意する。④冷蔵庫内の食品は、保存性を過信せず早めに食べる。⑤調理器具は十分に洗う。熱湯、塩素系消毒剤の使用が望ましいとされています。
ヒトは常在菌と共生して生きていることを忘れてはなりません。清潔にすることは感染予防には必要な事ですが、過剰な清潔習慣は常在菌を排除してしまうことで、常在菌のバランスを崩してしまい、病原性微生物が定着しやすくなり感染することになります。O157の追跡調査で重症化した感染者は、甚だしい清潔習慣によって常在菌のバランスが崩れていたという報告があります。