介護ケアの基本は、高齢者の能力に応じた自立した日常生活のために、サービス、支援を提供するものです。在宅ケアでは、介護職員が行うサービス、支援は、利用者の居住環境、日常生活行動などに応じた、介護保険制度で定められた身体介護、家事援助を行います。施設ケアでは、施設という居住環境の中で24時間体制のもと、身体介護を中心として、居室内の環境整備やアクティビティに関する企画・運営・実施を行います。
在宅ケアでは、介護支援専門員(ケアマネージャー)が行うケアマネジメントのもとで、チームアプローチが行われ、フォーマル、インフォーマルなサービス、支援を行う事業者、団体、地域グループなどの社会資源に属する専門職、ボランティア、個人などが、利用者の日常生活を協働しながら支援していますが、その活動の多くは別々の場面で行われています。
施設ケアでは、施設という大きな枠の中で、介護職員をはじめケアマネージャー、相談員、看護職員、機能訓練指導員などが、それぞれの職能に応じた業務を行うだけでなく、場面によっては関連職種がチームを組んでサービス、支援を行うことがあります。
介護保険制度は、高齢者が住み慣れた地域で、能力に応じた自立した日常生活を続けることを目的としています。高齢者が在宅生活から施設生活へと居所が移ったとしても、介護保険制度の目的を果たすために、施設での日常生活が在宅生活と同じような過ごし方が出来るように、介護職をはじめとした施設スタッフは、利用者の自宅での日常生活との落差を最小限度にする取り組みを行わなくてはなりません。
外山 義・著の「自宅でない在宅」に、自宅と施設との間で生じる落差について、①空間の落差、②時間の落差、③規則の落差、④言葉の落差、⑤役割喪失の落差の5つ述べられています。これらの5つの落差について、施設スタッフの利用者が自宅でどのような日常生活を過ごしていたかを知り、施設での生活を近づけるような取り組みを行う必要があります。また、施設のハード的な部分によって生じる落差は止める事は出来ませんが、施設スタッフのサービス、支援によってハード部分の落差も少なくする事は可能です。
施設生活を始めることで、高齢者は自宅での日常生活との落差に直面し、生きるモチベーションを低めてしまい、5つの落差を解消することなく生活することになれば、外山氏が著書で述べているように、「切り花のように、いくら栄養を与えても枯れてしまう」ことになってしまいます。
施設ケアも高齢者が主体となる個別性の高いケアを実践してゆかなければ、施設は「整備された生活環境」と言われる事がありますが、「整備された生活環境」というのは、利用者のためではなく施設運営者、施設職員などのため、施設運営、業務遂行のためのものと言わざるを得ません。
施設入所となっても、自宅での日常生活により近い落差の少ない生活環境を得ることで、「切り花」とならず「挿し木され大地に根付いた木」と同じように、利用者が生きるモチベーションを持ちながら、自律した施設での日常生活を送られている施設もあります。
施設ケアも在宅ケアも「本人の能力に応じた自立・自律した日常生活を送る」という目的は同じで、職務の内容や範囲は、それぞれの事業所で異なると思われますが、基本的なケアの姿勢には違いは無いと言うことを忘れてはいけません。
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