介護サービスには、どのように個別性の尊重や多くの事柄を知りながら利用者へのサービス、支援を行っても、数多くの限界があることは誰の目にも明らかです。「自宅でない在宅」(外山 義・著)で、高齢者が地域の生活から施設に入所することで生じる5つの落差が示されています。
5つの「落差」について考えて見ると、それぞれが介護のサービス、支援の提供によって生じている「落差」であり、介護サービスの「限界」を示していると考えられます。
5つの落差
①空間の落差
②時間の落差
③規則の落差
④言葉の落差
⑤役割喪失の落差
5つの落差は、確かに施設入所によって、在宅生活と比べると大きく変化することばかりです。そして、施設という生活環境では、この落差は起こり得るもので、介護サービスを提供、支援する場面では、やむを得ないものだと考えられがちです。しかし、5つの落差は、個別性を尊重した介護サービス、支援が行われることで、多くの落差を限りなくゼロに近づけることは可能です。
ただ、物理的な落差を消し去ることだけは、明らかな限界(壁)があり、ゼロに近づける事は不可能です。それでも、個別性を尊重した介護を行い落差の壁を低くする事で、QOLが在宅生活の頃に近づくことは可能となると考えられます。
5つの落差について、在宅高齢者が介護サービス、支援が必要になった事態の前の日常生活と介護サービス、支援が始まる事によって変わった日常生活を比べてみると、必ずしも高齢者が施設に入所することで生じるだけでなく、高齢者が在宅で介護サービスを受けることになった場合にも、明らかに介護サービス、支援が行われることで落差が生じるものだという事は容易に想像が出来ます。
介護職員は、利用者それぞれの能力に応じた自立・自律した日常生活のために、欲求、QOL、尊厳など数多くの事柄について知りながら、個別性を尊重したサービス、支援の提供を、チームアプローチのメンバーとして社会資源(多職種)と、そして利用者本人とも協働しながら行うことで、介護サービスが持つ限界(介護サービス、支援が行われることによる落差)を変えるだけでなく取り払う努力をしなくてはなりません。
202109