ひとの行動には、人それぞれの欲求と動機が伴っていると言われます。ひとが持つ欲求(「やりたいこと」、「やれること」、「やること」)には、5つの段階になっていて、下位の段階の欲求が満たされると、より上位の段階の欲求に移って行くという「マズローの欲求段階説」という心理学の理論があります。
マズローの欲求段階
①生理的欲求
②安全・安定の欲求
③所属・愛情欲求/社会的欲求
④自我・尊厳の欲求
⑤自己実現の欲求
マズローの欲求段階は、ひとの行動がどの段階の欲求によって動機付けされて起きるのかを示したもので、動機付け(モチベーション)理論の一つとされています。最も基本的な①生理的欲求から②安全・安定の欲求へ移り、さらに社会的な存在として③所属・愛情欲求となり④自我・尊厳の欲求に至るというものです。そして、⑤自己実現の欲求は、他の評価を求める事がない自己の中だけの欲求とされています。
ひとの行動は、それぞれの欲求段階を満足、達成するために動機付けされて起きるものだとされています。ひとの行動と欲求、動機との関係を知るには、利用者の欲求がどの段階にあるかを知る事が必要です。また、利用者のニーズがどの段階のものなのかも理解する必要があります。
ひとそれぞれの到達している欲求段階を知って介護を行う事は、質の高いサービス、支援の提供につながります。そして、自立を支える介護を行うためにも、利用者が到達している欲求の段階がどこにあるかを知る事は重要なことになります。より基本的な欲求段階にあるにもかかわらず、高い欲求段階にあると判断して、間違った支援をすることは避けなければいけませんし、欲求段階を引き下げてしまう危険性もあります。
ひとの行動は、それぞれの段階にある欲求を達成するために動機付けが行われます。ひとの自己決定は、それぞれが達成した段階に応じた動機付けに基づいて行われるものです。ひとの動機付けには、「外的動機付け(完全に他律」、他者から強制されて行動する)なものと「内的動機付け」、完全に自立(自らの意思で行動する)なものとの間に連続的な動機付けの状態があるとされています。
介護職員は、利用者の自立を支える介護のためには、利用者が達成している欲求の段階に応じた、利用者が発するそれぞれの欲求への支援を行う事が必要となります。さらに欲求の結果として表れた行動の動機付けの状態を知る事も必要となります。
他人の行動を知るには、自らの行動を知る事が一番の近道です。自分がどの欲求段階に達しているか、自分の欲求はどの段階のものなのか、そして、どのような動機付けの状態で行動が行われたかを意識する事が、他人を知る事のヒントにもなり、介護の専門職としての自分を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。
202106