虐待は、高齢者だけでなく、児童、障害者、女性などに対して引き起こされる、人権ばかりでなく尊厳をも侵す許されざる行為です。虐待は、起こってはならないものですし、社会全体で取り組んで無くして行かなくてはならないものです。
高齢者に対する虐待の予防、対策、支援を定めた制度に高齢者虐待防止法があります。高齢者虐待防止法の対象は、65歳以上となっていますが、虐待は年齢に限らず広い範囲、対象で起こり得るものですから、法律、制度の定めがあるとしても、その枠にとらわれない対応が必要です。
高齢者への虐待は、国は「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利・利益を侵害される状態や生命,健康,生活が損なわれるような状態に置かれること」と定義した上で5つに分類しています。
①身体的虐待
⇒高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
②介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)
養護者⇒高齢者を衰弱させるような著しい減食,長時間の放置,養護者以外の同居人による虐待行為の放置など,養護を著しく怠ること
施設等⇒高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
③心理的虐待
⇒高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
④性的虐待
⇒高齢者に対するわいせつな行為をすること又は高齢者に対してわいせつな行為をさせること
⑤経済的虐待
養護者⇒養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
施設等⇒高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
平成24年度の国の調査結果では、養護者による虐待についての相談通報者は26,562人で、①介護支援専門員、②家族・親族、③警察の順になっています。虐待の原因は、①虐待者の障害・疾病、②虐待者の介護疲れ・介護ストレス、③過程における経済的困窮(経済的問題)となっています。
介護保険制度が開始されて、在宅介護、自立支援のサービス、支援の充実と言われ続けていますが、介護支援専門員からの相談通報が最も多い(32.0%)ことは、介護保険制度におけるケアマネジメントが虐待の予防・対応に役立っていると考えられます。その一方で養護者からの虐待を受けた高齢者の人数は、1万5千人(虐待と判断された者)を超えており、虐待の問題が解消されるにはほど遠い状況となっています。
虐待の主要な原因が、「虐待者の障害・疾病」や「介護疲れ・介護ストレス」から来るものとなっており、介護保険制度におけるケアマネジメントが適切に行われておらず、社会資源整備・活用が不十分であることなど、介護保険制度の「社会で支える」という目的達成にはほど遠いことを、介護職は介護の専門職として知っておかなくてはなりません。