施設へ入居する際のポイントを考えてみる際、「テーブルの高さ」というものも非常に大切です。どういう事でしょうか。細かくみていきましょう。
「道具」には意味がある
例えば、「杖」。これは、人によって長さや形、また形態が違っているものですよね。一本だけの杖であっても長さが違いますし、床につく部分が四つ又に分かれていて安定性が図られている杖もあります。また、「メガネ」。老眼鏡はそんなに細かく分かれてはいないようですが、近視や遠視はもちろんメガネも個人個人で全て度が違うのが通常です。この様に、道具には、それを使う目的があるはずです。
椅子やテーブルも同じ
これをテーブルに置き換えてみましょう。子供が肘をついて食事を食べていて、親に注意されている場面を想像してください。ここで、親は閃きます。「そうだ!肘がつかない様な椅子とテーブルの高さにすればいいんだ!」つまり、座った時に肘がテーブルの上に来ない様な位置関係をつくりだす、という事です。これは名案なのでしょうか、結論から言えば、名案ではありません。なぜでしょうか。肘がつける高さというのは、食事を食べる時の理想的な位置だからです。椅子に座ってテーブルがこの高さにくるとなると、食事を食べる時には少し下を向いて食べる事になりますね。実はこの姿勢が、高齢者の食事姿勢にはとても重要です。例えば、自分で食べられない人が食事の介助を受けるとしましょう。介助するスタッフの方が高い位置から介助しようとすると、高齢者は、上を向かなければならなくなります。この姿勢で食べ物を飲み込むのは、飲み込む力が弱くなっている高齢者にとっては至難の業です。皆さんも、座った状態で上を向いてツバを飲み込んでみてください。大変ではありませんか?こうなると、高齢者は段々と、頭だけではなくて身体全体が後ろに傾く…つまり背もたれに寄りかかる様な姿勢になってきます。どうせ上を向いて飲み込むなら、この姿勢の方が重力が使えますからね。しかしこれで、食べ物が食道ではなくて気管の方に入っていってしまう「誤嚥」の姿勢の出来上がりとなります。逆に、テーブルの位置が低すぎて下を向き過ぎてしまう事も、食べ物を飲み込みにくくさせるだけです。尚、食事の時に椅子に座った場合、両足の足裏がしっかりと床についていた方が、安定した姿勢がとれて食事がしやすいはずです。
椅子やテーブルの何を見るか
椅子とテーブルの位置関係が非常に重要なのは分かりました。でも、肘をついた位置に来るか来ないかなんて、実際に座ってもらわないと分からないじゃないか…と思った方、ご安心ください。確かにそうなのですが、入居見学の時に食事の時間帯に訪問する事はあまり好ましくないかもしれません。入居者にとって、食事はゆっくりと食べたいものですから、外部者に見られていたら気持ちの良いものではないからです。ですから、椅子とテーブルの高さがバラバラかどうかを確認しましょう。全てのテーブルと椅子の高さが綺麗に揃っている施設、その施設は入居者の事を考えていません。それぞれに合わせたテーブルの高さが選べるように、高さが違うテーブルを用意しておく必要があるからです。また、テーブルの高さは違っても、椅子が全くない場合、この施設も少しダメですね。なぜなら、車椅子はあくまで移動の道具であって、食事を食べる椅子ではないからです。理想的なのは、車椅子が必要な方でも、食事をとる時にはしっかりとした椅子に移り座る事。もちろん中には、「絶対に車椅子のままで食べたい。移るのなんて面倒くさい」という入居者もいるのでしょうが、全ての入居者がその希望という事はあまり考えられません。椅子がないと言う事は、スタッフが、食事の時の移り座りの介助を行っていないという証拠です。