認知症が進んでいくと、今がいつなのか、ここがどこなのか、目の前の人が誰なのか判らなくなります。これは「失見当識」といいます。認知症の人が家族やいつも介護しているスタッフに向かって「どなたですか」などと聞くと、戸惑いますが、認知症の人はあなたが混乱している以上に混乱しています。自分が思い込んでいることと周りが教えてくれる事実が一致しないのですから。
認知症の人がどのような気持ちでいるかを考えながら対応することが大切です。
他の人に間違えられた場合
毎日顔を合わせているのに、「どなたですか?」と聞かれたり、「●●さん、ご無沙汰ですね」などと他人と取り違えて名前を呼ばれたりすると、愛情をもって介護をしようという気持ちがくじけそうになります。でも「私は■■です、間違えないでください」とか、「いつも会っているでしょ」などときつく言い返すと、認知症の人は自信を無くして話しかけることをしなくなる場合があります。まずは、「ご機嫌いかがですか?」などと話を合わせたり演技をすることも対応策です。
今がいつなのか判らない場合
認知症が進行してくると、本人の若い頃の記憶のなかと現実が混在するようになります。人によっては自分の記憶がはっきりと残っている時代のなかに戻っていく場合もあります。そのために、人や場所の認識が実際と合わず、周りの人を混乱させることになります。「何を訳のわからないことを言っているの」と叱ったり、「いつの話をしてるのか」ときつく問い直したり、「今は●●年ですよ」と訂正しても、本人には理解ができません。それどころか、認識を正そうと訂正すればするほど、認知症の人は心を閉ざし、あなたとの会話を避けるようになるかもしれません。
認知症の人が生活をしているのは現実でもあり、記憶のなかでもあるのです。そうした現状を頭にいれて、まずは認知症の人の話を聞き入れてみましょう。
認知症の人の描いている世界をじっくりと聞き、話を合わせながら互いの信頼を築くことが大切です。