浴槽は3種類、設置方法は4種類。その組み合わせが大事
足腰が不自由になったり、また寝たきりになったりした場合に、浴室の改修を考える人も多いでしょう。そこで、要介護者やその家族にとって理想的な浴槽とはどのようなものなのかをご説明しましょう。
そもそも浴槽には、3つのタイプがあります。古くから日本人に親しまれてきた「和式」のものは、前後に狭く、深さのあるものです。一方で、昨今のマンションなどでよく見られる「洋式」のものは、全身を伸ばした状態で入浴できるほど長く、寝転がってお湯に浸かれるように、縁に傾斜がつけられています。また「和洋折衷型」というものもあり、これは和式と洋式の中間くらいの長さで、少し急な傾斜角がつけられているタイプのものです。
これらの浴槽を設置するにあたって、その設置方法にも種類があります。普通の浴室であれば、浴槽を床面の上に置く「据え置き型」が一般的ですが、中には床に20 cmほど埋め込んで設置する「半埋め込み型」、浴槽の大部分を床に埋め込む「落とし込み型」、浴槽を完全に床に埋め込んでしまう「埋め込み型」という4つの種類があります。
これらの浴槽と設置方法を組み合わせて、理想的な浴室を作っていくことになるわけですが、その前にまずはその逆の、最も望ましくない浴室についてご説明しましょう。
最も望ましくない浴室は「洋式+埋め込み型」
昨今は、「バリアフリー=段差がないこと」が至上とされ、その考えは浴室にも持ち込まれがちですが、それは大きな間違いです。
浴室内の段差をなくそうとしますと、「洋式+埋め込み型」ということになるのですが、これでは浴槽へ出入りする時に床にしゃがんだり、床から立ち上がったりしなければならず、足が不自由な要介護者にとって大きな負担となります。また、浴槽の向こう縁に足が届きませんと、上手くからだを支えることができず、浴槽から出る時の安定さに欠けてしまうのです。
理想の浴室は「和式+半埋め込み型」
では、理想的な浴槽とは一体どのようなものなのでしょうか? その答えは、「和式+半埋め込み型」です。
和式の浴槽のメリットは、広さが適度だという点です。浴槽の縁にからだが着くことで、左右のどちらかがマヒして不安定だったとしても、安定性を保つことができます。浴槽から出る時も、浴槽を支えとして反動の力を利用することも可能です。また、浴槽が深いと浮力が大きくなるため、介護者が引き上げようとする時も負担が小さくて済みます。
半埋め込み型のメリットは、浴槽への出入りがラクという点です。据え置き型では高すぎますし、落とし込み型では逆に低すぎて出入りする際にしゃがんだり立ち上がったりという負担が大きいですので、その中間を取った半埋め込み型が良いのです。
ベストなのは、深さ約60 cmの浴槽を、床からの高さ約40 cmになるように設置することです。また、浴槽に入る前のワンクッションとして、浴槽のすぐ脇に、浴槽と同じ高さの台を用意するとより良いでしょう。そこに座ることで、浴槽への出入りがスムーズになります。
現状が「和式+据え置き型」というタイプの場合でも、簡単に「半埋め込み型」にすることができます。その方法は、床にすのこを敷くだけです。床全体に敷けば段差がなくなり、転倒などの危険も避けられるようになりますよ。
少しの工夫で、より快適な入浴が可能になる
浴室を理想的な形態にしたら、次は細部へと目を配りましょう。
まず浴槽自体の壁の厚さですが、これは5 cm以内が理想的です。こうすることで掴みやすくなり、浴槽への出入り時にも安定性が増します。浴槽の材質はステンレス製にすると良いでしょう。ステンレスは強度が高く、水圧による変形などを避けることができるために、壁を薄くすることができるのです。また、傷がつけきにくいため、衛生管理も比較的ラクになります。
ドアの開き方も大切です。一般的に浴室は内開きの場合が多いですが、浴槽の脇に台を置くとドアが開かなくなることもありますので、理想は外開きです。それが難しいようであればアコーディオンタイプのドアにするなど、スムーズにドアを開閉できるような工夫をすると良いですね。
浴槽の内側に手すりをつける人も多いようですが、これはあまり必要ありません。浴槽への出入りの邪魔になり、また介助するにあたっても要介護者が遠くなるなど、良いことがありません。どうしても必要だという場合は、浴槽の外側に、要介護者の身長や腕の長さに合わせて設置すると良いでしょう。