刻み食はおいしくない!?
高齢者や要介護者の食事と言えば、包丁で細かくみじん切りにしたり、ミキサーやフードプロセッサーでつぶしたりしたものを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。確かに、病院食などではこうした食事が出ることもありますが、それらを実際に食べたことはありますか?正直言っておいしいとは言ません、しかも歯にはさまったり、舌に残ったりして不快な思いをします。そもそも人間は、味はもちろん見た目は匂いでもおいしいかどうかを判断しているわけですから、刻み食をおいしいと感じるはずがないのです。
高齢者や要介護者がよくむせるからと言って、十把ひとからげに刻み食を提供するのは間違いです。というのも、人間が物を食べる時は、「噛む」「丸める」「飲み込む」という行為を口の中でしており、その3つのうちのどこに問題があるかで、提供する食事を変える必要があるためです。もちろん、食べる際に理想的な前かがみの姿勢が取れているかどうかも、判断基準の一つです。とにかく注意深く、食べる際の様子を観察することが、食事介助の重要なポイントなのです。
“むせる”を防ぐ3つのポイント
「噛む」「丸める」「飲み込む」という3つの過程のどこに問題があるかによって、食事の対策は変わってきます。そこで、それぞれの原因と対策について解説しましょう。
(1)「噛む」に問題がある場合
虫歯をはじめ、高齢者では特に歯周病や歯槽のうろうなどの病気のために、食べ物を上手く噛めない、又は噛むと痛いといったケースが多く見られます。その対策としては、「柔らかく調理する」「食材をつぶす」「食材を刻む」といった方法が考えられます。ただし先述したように、つぶした料理や刻み食を提供する場合でも、やり過ぎはNGです。適度に食感が得られる程度の加減にするよう注意しましょう。
(2)「丸める」に問題がある場合
歯や入れ歯、舌の動きに問題がありますと、食べ物を上手く丸めることができず、飲み込むまでの過程で弊害が生じます(1)のように刻み食にしてしまうとなおさら丸められないため、対策としてベストなのは「食材を一口大に切っておく」「とろみをつける」「柔らかく調理する」ということになります。
(3)「飲み込む」に問題がある場合
嚥下障がい、つまり飲み込むことに難がある場合は、食材をつぶしたり刻んだりしても無意味です。固形物でむせる場合は「とろみをつける」、水分でむせる場合は「とろみ水やゼリー状にする」といった方法が良いでしょう。
柔らかく調理するには、どうすれば良い?
ひとくちに“柔らかく”と言っても、なかなか難しいのが調理です。とろみをつけるのと同列に扱われがちですが、あらゆる料理にとろみをつけても食べる人が飽きてしまいますので、あくまで食材の特性を活かし、柔らかく調理することを心がけましょう。
どんな料理・食材にも、調理する際にはそれぞれの適温というものがあります。例えば茶碗蒸しだったら80℃で25分ほど過熱することでおいしく仕上がりますし、肉や魚を調理する時は75℃、じゃがいもなどの根菜類は92〜100℃で調理すればおいしく、そして食材の風味を損なわないままに仕上げることができます。食材が持つ旨味を活かすためには、あまり時間をかけて煮すぎたり焼き過ぎたりしないことが重要です。
ちなみに、細菌が増殖する温度は16~52℃です。細菌は食中毒などの原因にもなりますので、温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに提供し、食べてもらうように促しましょう。
とろみをつけるには、どうすれば良い?
こちらも、ひとくちに“とろみをつける”と言っても、なかなか難しいものです。例えば片栗粉を使って麻婆豆腐を作ろうとして、ダマを作った経験がある人も少なくないでしょう。とろみをつける時はいくつかコツがありますので、ご紹介しましょう。
<冷たい料理にとろみをつける場合>
ゼラチン…40~50℃で溶けるため、調理の火を止めた後に加え、加熱せず溶かしていきます。熱に弱いため、加熱しすぎると凝固作用が落ちるので注意しましょう。
寒天…90℃以上加熱しないと溶けません。そのため水分と一緒に火にかけ、煮て溶かしていき、沸騰したら1~2分加熱して火を止めます。
<温かい料理にとろみをつける場合>
片栗粉…液体100 mlに対して、水溶き片栗粉(水6 mlに片栗粉3gを溶いたもの)が基本の濃度です。火にかけた状態の液体に水溶き片栗粉を徐々に加えていき、まんべんなく混ぜ合わせ、フツフツと煮立ってくるまで待ちましょう。30℃以下になると水と片栗粉が分離してべちゃっとなってしまいますので、温かいうちに提供しましょう。また、コーンスターチやくず粉といったものを代用してもOKです。