前かがみで誤嚥(ごえん)を防ぐ
私たち人間は、物を食べる時に必ず前かがみの姿勢を取っています。それは、ちゃぶ台を前にして正座して食べている時も、テーブルを前にして食べている時も同じこと。また、若い健常者でも介護が必要な高齢者でも、はたまた寝たきりの人でも同様です。これはつまり、食べるという行為において最適な姿勢が前かがみだということの証でもあります。
あえて上を向いたり、寝転んだまま物を食べようとしたりしてみますと、物を飲み込みにくいばかりか、気道に物が入ってむせてしまうことがあるはずです。これは、顔を上げたままでは気道と食道を隔てているふたが閉まる前に物が落ちてくることになり、気道に物が入ることによってからだが拒否反応を示すためです。
気道に物が入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」と呼びます。誤嚥をしますと、特に高齢者では、窒息したり誤嚥性肺炎を招いたり、むせたはずみで脳出血を起こしたりと、様々な弊害が生じる危険性があります。寝たきりの高齢者はもちろん、片マヒやパーキンソン病などで飲み込むことが難しい人でも、できるだけ座った姿勢で、前かがみになって食べることが大切なのです。
寝たきりの人の食事介助の場面では、寝たままスプーンを口に持っていったり、鼻チューブから栄養を摂ったりするといった方法を選択することも多いでしょう。しかし、座る姿勢を取ることで、今まで食べようとしなかった人が積極的に食事をするようになったという例も多数報告されています。車イスに乗せて食堂まで連れて行ったり、それが難しい場合はベッドに足を垂らして座ったりという方法でもOKです。なるべく座って、前かがみの姿勢になるように促すと良いでしょう。
座って食べる3つのポイント
安定して座って食べるための、3つのポイントをご紹介します。これらのポイントが押さえられれば、食べる時は自然と前かがみの姿勢になり、誤嚥の危険性も低くなるはずです。
1.テーブルの高さが適度である
小柄だったり腰や背中が曲がったりしている高齢者では、普通のテーブルでは高すぎて、前かがみの姿勢が取れないケースが多く見られます。適度な高さとは、テーブルの面がイスに座った時のおへそくらいの位置になる高さです。
2.イスの高さが適度である
イスの適度な高さとは、座った状態でかかとが床に着くくらいの高さです。市販のダイニングチェアなどは大抵、座面までの高さが40センチほどありますが、日本人の高齢女性のひざ下は、一般的に37センチほどと言われています。一人一人の足の長さに合わせてイスの脚を切ったり、又は脚にクッションを付けて高くしたりするなどの調節をしてあげましょう。
3.イスに背もたれがある
座り姿勢を安定させるためには、イスに深く腰かける必要があります。その時には、背もたれがあることで安心感が生まれるはずです。また、片マヒなどでバランスが取りづらい高齢者のためには、肘置きが付いているタイプなどを用意してあげましょう。
良い老人施設かどうかは食道に行けばわかる!?
ここまでの説明で、前かがみの姿勢で物を食べることがいかに大切かがわかったと思います。ということは、この姿勢を取るための工夫がされているかどうかが、良い老人施設を見極めるポイントになります。
テーブルの高さは低めに設定されているか、イスは利用者それぞれに合った高さに調節されているか、肘置き付きのイスは用意されているか、といった点を確認すれば、いかに高齢者の生活・健康に気を配った施設かどうかがわかるのです。施設の見学に行く場合などは、必ずチェックするようにしましょう。